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花嫁と猫ぶりの王子様  作者: 羽多野紫喜
2/11

王都へ

馬車に乗り込んでから、3時間ほどが経過した。降り続ける雨の音と暗闇で先の見えない景色をただ茫然と見て過ごしていた。エイダと名乗った彼女は私の正面に座り込み、この3時間一言も話さない。気まずさから話し掛けようと彼女をみるもの、その視線は私に向きていない。話しかけるな。と、無言の圧力を感じてしまい、長すぎる沈黙が続いてる。



このまま後何時間いなくちゃいけないんだろう。

カーティス家から王都までは、山二つ超えなくてはならない。天候が雨で真夜中ってことも考えると、到着は明日のお昼あたりになる。


「ユーナ様、お休みになって頂いてもかまいません」


突然、エイダは薄い唇を動かして初めて口を開いた。表情を変えず、放たれた言葉に私は一瞬戸惑いながらも答える。


「いえ…緊張して眠れないので…その、大丈夫です」


「では、何かお飲物でも?」


「だ、大丈夫です」


「承知致しました」


再び沈黙が流れた。これって、話し掛けるチャンスかもしれない。彼女は同じ女性、色々と聞いてみたい。情報収集をしなければ。


「あの…雨、やみませんね」


「はい」


「お昼は晴れていたのに、夕方から降り始めたので、通り雨かと思いましたけど…そうでもなかったですね」


「はい」


無難な会話の内容かと思ったけれど…エイダは思った通りに返してくれない。ここで諦めたら、余計気まずくなる。


「あの、その…つかぬ事をお聞きしますが…エイダは、おいくつですか?」


見た目からして、私と同じくらいかな。肌の艶もよく、スタイルもいい。人形のような彼女を足元から頭の先まで視線を送ればエイダは無表情のまま言う。


「27でございます」


「そうなんだ。もっと、若いと思いました。そうだ、王都はどのような所なの?私、王都は訪れた事がありません。とても賑やかだとお姉様に聞いていて楽しみなの」


「はい」


「そうだ…殿下や陛下も拝見するのは初めてで…どのような方なのかしら?」


「とても素晴らしい方々にてございます」


「そうなんだ。花嫁候補は何人くらいくるのかしら?他国の姫君様もご招待を受けていて?」


「ユーナ様」


「はい」


質問攻めをする私に一喝いれるかのように名前を呼ぶ。驚いて、目を大きく見開くと、エイダはゴホンとわざとらしく咳払いをする。


「王宮につきましたら、選考会に向けての準備が山のようにございます。お時間があるうちに、お休みになったほうがよろしいかと」


だから話し掛けるな。そうとでも言いたそうな顔に私は思わず押し黙る。


「ご、ごめんなさい。そうよね。では、お言葉に甘えて休ませて貰います」


眠気はないが、エイダから頂いた毛布を膝にかけて目をつぶる。でも、こんな状況では絶対に眠れない。そう思いながら、無理矢理ねむりについたのであった。



よほど緊張していたのだろうか。眠れないと思っていたけれど、気づいたら眠ってた。エイダに起こされた時には既に王都の中。王都はカーティス家の屋敷の周辺とは違い、クロエ様の言う通り人に溢れ賑やかでキラキラとしている。商人が多いのか、いたるところでお店を開き民衆や貴族に物を販売している姿を多く目にする。


アーダルベール国の王都カールは陛下が住む城を中心に住宅地区、商業地区、外交地区といくつかの区画に分離されている。海と山にかこまれ、食糧が豊富、おまけに山から採取できる鉱物のおかげでこの世界で三本の指にはいるほど豊な都市だ。


そして隣国には、アイテルとシンドゥールという国が存在し、アイテルとは同盟を結んでいるが、シンドゥールとは10年ほど冷戦状態。クロエ様から幼き頃から勉学に励んでいた為、それなりの知識はある。




外を眺め観察していれば、お昼に王宮に到着。エイダに言われたとおり確かに到着してからは忙しかった。

馬車を降りるなり、すぐさま身を清める為に身ぐるみを剥がされた。広い湯殿にぶち込まれ、初めてお会いする60代女性3人にかこまれ、身体の隅々まで洗われた。



草の香りがする油で、脚、腹部、胸、腕、顔とマッサージを施され、再び湯殿にぶち込まれて洗われる。その後は上から下まで丁寧にか 乾かして動きやすいドレスに着替える。柑橘系の香料を下半身につけ、やっと解放された頃には太陽が沈んでいて、一日の終わりが近い。



その後、通された部屋は50畳ほどのお部屋で、「ここでしばしお待ちください」そういわれ、やっとのことで一人になることができた。



「つ、つかれた…」



1人になった部屋で、ふらつく足取りで歩きながら窓に近寄れば城下町が一望できる。明かりが光り輝きとても素敵な夜景。ついに、来たんだね。王都に。 1人になり、落ち着いて改めて来てしまった。そう実感する。それにしても、王都の夜景はとても綺麗。カーティス家は緑に囲まれた場所に家があり、夜景などあまり見る機会はなかった。もちろん、別邸は王都にあるけへどあまり使っていない。明かりが集まるとこんなに綺麗なんだ…と、感激していると不意にドアを三回ノックする音が部屋に響いた。




誰か来たのかな。窓から離れ、ドアに向かいそっとノブに手をかける。返事もなしにドアノブをゆっくりと開ければそこには男性が1人。片手に分厚い書物を持ち立っていた。


「どうも」


「え?」


ウェーブの効いた美しいマロン色の髪の毛。肩につかるほど長い。淡いエメラルドグリーン色の装飾を耳に施し片耳に髪をかけていた。色白の肌と濃いブラウンの瞳。美男子だと思う。形の良い鼻と唇。まるで、絵画から飛び出てきたかのよう。



「あの…えっと…なにか?」



「何って…冷たい事を言う子だね。今朝、周りの子の目を盗み君の方から夜に誘ってきたと言うのに。まだ仕事が残っているけれど…こうやって部屋で仕事をすると嘘をつきギルバートをまいて来たんだ。此処のところ、忙しくて久しぶりの誘いに心を踊らされていたよ」



「え、えっと…」


何を言っているんだろう、この人。首を傾げ、意味がわからないと無言で訴えるもの男は口元を引き上げ微笑んだ。伸ばした手を肩に置き髪の毛を指に絡ませて弄ぶ。時折首筋に指先が触れゾクッと寒気が走る。髪の毛をこのように触れられた事なんてない。ましてや初対面の異性に。顔が引きつらせ、数歩下がり両手で胸元の衣服を握りしめた。


「そんな、避けないでよ。もしかして、そうやって私の気を引こうとしている?確かに逃げられるとつい追いかけてしまいたくはなるけど」



「あの…ごめんなさい。さっきからなんのことですか?だ、誰かと勘違いされているかと思います」


「…え?」


瞬時に何か悟ったのだろう。


周囲をキョロキョロと見渡し、私の身体を足元から頭上までじっくりと眺める。あからさまに作った満面の笑みを浮かべた。


「あぁ、すまないね。どうやら私は部屋を間違えてしまったみたいだ」


「は…はい。そう、ですよね」


「だけど、困ったなぁ。ここで引き返すべきなのだけど、このまま戻れば怒られてしまう」


「それは…大変ですね」


「そうだね。大変かな。では、そう言う事でちょっと、匿ってくれないかな?」


「かくまう?あの…誰かとお約束をしているなら急いだほうがいいかと思います。聞いた所、お誘いとの事で恋人では?きっと、まだかと心待ちにしているかと思います」



それに、ここには花嫁候補として来ている。候補なのに初日に他の男性を部屋に招き入れた事が知られたら大問題になってしまう。


「約束はしてないよ。向こうが一方的に誘ってきた事。それに恋人って…今の私に向かって面白い事を言う子だね。良いから黙って助けてよ」



初対面で偉そうな態度に私は彼を見上げる。身長の高い彼からしてみれば睨まれていると感じる視線に気にもしない様子で私を見下ろす。優しい目元をしているけれど、どこか威嚇するような鋭い瞳に屈してしまいそうになりが、ぐっと気を引き締め彼をみあげた。



「ごめんなさい…それは出来ません。お約束ではないのならご自身のお部屋に戻っていただけませんか?このようなお時間に女性の寝室に来るなど、失礼かと思います。その…もし誰かに追われているのでしたら、ここに来たことはいいませんので…」


「君はどこの子かな?もしかして、私の事知らないの?王都の外から来た新人?そう思えばよく見ると見ない顔だ。名前と出身は?異国の者かな。その濁りのない漆黒の瞳と髪の毛の色は王都ではとても珍しい」


「え、いや…その…」



王都カールでは、明るい髪の毛と青い瞳の者が多い。いや、そもそもアーダルベールの国民はほとんどが青い瞳に明るい髪色。そうでない者は、9割が他国からきた者がほとんど。よって王都の王宮に住むこの男性からしてみればとても珍しいのかも。


「まっ、どっちにしても君は良いタイミンでここに来たね。今、この王宮では殿下の婚約者が集結していて、新人侍女以外は姫君について、召使いも慌しく働いている。花嫁達の面倒なお世話を押し付けられなくて運がいいよ」



私を侍女か召使いだと思っているの?いや、あたってはいるけれど。ここで否定などしたら、少し面倒だ。速く話を切り上げて出て行ってもらわないと。



「ど、どうも…あの、それより」


「それより、さっきも言ったけどかくまってくれないかな?本当にお願い」


「い、いえ。私も先ほども言いましたけど、知らない男性をこのような時間にあげるのは、その…ちょっと」


「かたいことを言う子だね。大丈夫だよ。その気がない子にそんなことはしないから」



そういうと、私の肩に手を置き強引に部屋に入ってくる。「まって」そう叫ぼうとする私の唇を人差し指で塞ぐと「黙って」と耳元で囁かれた。ぞっくとするほどの声。悪い意味ではなく、心臓が飛び出てしまいそうな色めいた声に身体が固まる。



この人は誰なの。王宮に来た日に問題をおこしてカーティス家に迷惑をかけるわけにはいかない。唇から手を離し、そのまま部屋のドアを閉めようとする男の袖を力一杯掴んだ。ギョッとした目で男は私を見つめてくるが、その視線を見ないように顔をふせ男性の背中を押しながら部屋の外に強引に追い出す。


「え、ちょっと」


「あの…本当にごめんなさい!無理です!他を当たってください!」



バタンと勢いよく扉を閉め鍵もしめる。扉に背をつけ激しく鼓動を繰り返す胸に手をあてた。凄いドキドキしている。でも、こうしないときっと取り返しのつかないことになっていた。深い深呼吸を繰り返し、なんの反応もないドアを振り返り耳を当てるが何も聞こえない。諦めてくれたのだろうか。安堵の息をもらし、ドアから離れる。あの人、いったい誰だったんだろう。あんなに派手な人が王宮にいるだなんて。どのような仕事をしているのかな。まぁ、どちらにしても二度と会わないことを願おう。そう思い念のために今一度扉に片耳をあて耳を澄ますが、なにも聞こえなかった。


一安心し、そのまま私は部屋の寝具に倒れ込む。安心すると1日の一気に疲れが襲って来る。とても眠い。誰か来るまで、寝ようかな。きっと、明日も大変だ。そのまま、私はふかふかの寝具の上で深い眠りについてしまった。


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