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プロフェッショナル~仕事の流儀~芸術家~ムラカワアオイ~神の色を持つ男

作者: ムラカワアオイ

神の色を持つ男


この日、ムラカワは溜め息ばかり吐いていた。絵画と写真のコラボ、その作品が賞を獲ったのだ。合格通知に目をやるムラカワ。その日疲れきったムラカワは、コンビニでメロンソーダを買う。

「こういう時、飲めたらいいんですけどね。僕、飲めないんで。メロンソーダですよ。この歳になっても」

ムラカワの絵には、独特の毒がある。ムラカワは筆を使わない。指で絵の具に触り、指で絵画をきれいに描く。ある人は言う。「天才」ムラカワはこう答えた。

「天才的あほなんですよ。僕は。どっかで、しどろもどろしてないと描けなくなるから。あほでいたいですね」

「ご自分の作品をどう思われますか」

「ううん。好き嫌いが分かれると正直、想いますね。八方美人的なことはもう、辞めた方がええかもしれへんのかなぁ」

この日、ムラカワは、もう一つの顔。詩人としての意見を言った。

「言葉遊び的な感じでは得意なのかなぁ。でも、僕より上手い人、わんさかいますよ。腐るほど」

また、溜め息を吐く。メロンソーダを飲み干すムラカワアオイ。

「ご自分のことを誇りに想えますか」

「ううん。それは、ハーフハーフですかね。自分が好きだから描いてるのか自分が嫌いだから描いてるのか。それはわかんないですね」

「産まれ変わっても画家になりたいと思われますか」

「ううん。いや、それは、どうでしょう。もともと、レーサーに憧れてた少年でしたから。でも、音楽にはまった時期もあって。ベーシストになりたいとふと、思ったりしました。ベースのあの、なんて言うのかな。魅力というか。音の仕事はしてみたいかなぁ」

 ムラカワアオイ。40歳。ヘビースモーカー。独身。テレビと学校が苦手。好きなモノはF1。小中と、登校拒否児だった、ムラカワが影響をまず、最初に、受けたのは、「山下清」と「アイルトンセナ」。だった。ムラカワは昼夜逆転した生活を子供の頃に送っていた。F1に夢中なのは、その頃からだ。「山下清」の個展を小学生の頃、観に行ったムラカワは、夜も眠れないほど、「山下清」に夢中になった。ムラカワはこう、無邪気に話し出した。

「山下清さんの個展は今でも、鮮明に覚えています。凄く、華やかなのに、どことなく寂し気で。僕は、親父にその日、画用紙と水彩の絵の具を買ってもらいました。その日から、F1のセナやシューマッハ、プロスト、アレジ、フェラーリやマクラーレンホンダを描くようになって。ほんと、夢中になりましたよ。僕、F1しりとりだけは負けたことがないんですよ」

ムラカワは無邪気な笑顔でこう言って、コーヒーを飲み干す。そして、ムラカワが油絵を描き出した。ムラカワには、いくつかの流儀がある。

「絵はきれいに汚すもの」

「馬鹿だから描く」

「良い意味で心を病め」

ムラカワが本格的に創作活動を始めたのは、二十歳の頃。まず、自作の詩が、コンテストに受かり、本という形で活字になった。そして、二十四歳の時、二つの転機が訪れた。映画製作を夢見た、ムラカワの姿が、映画監督、「荒井スミシ」の目にとまり、ADとしての仕事を始めた。そして、画家、「南健男」に弟子入りし、多くを学び始めた。

「南先生のことは、今でも、尊敬していますし、僕を画家にしてくれた恩人なので、今でも南先生に足を向けることは出来ないですね。ADとしてはどうだろう。向いてなかったのかな。荒井監督と作品について、言い争いでしょ。おそらく、監督と上手くやれたのは最初の二か月ぐらいだと思いますね」

 そんな、ムラカワに、大阪のとある大学生の自主映画サークルから声がかかった。

『監督をやってみないか』

 ムラカワはその話に、のった。週三日、大阪での映画製作についての会議に参加しては、意見をまとめていく。そして、ある一本の映画が完成した。

「これも大変でしたね。ねえ。皆、大学生で、僕だけ中卒。でも、完成した映画には文句はないです。皆、よくやってくれましたよ」

 そして、ムラカワに春が来た。画家として、個展を開催したのだ。しかし、師匠、南健男は発表した作品を認めなかった。

「悔しかったです。僕、凄く、負けず嫌いなので、そっから、デッサン、油絵、とにかく、必死でした。そのうち、師匠が認めてくれた、絵が一枚、出来て、コンテストに入選したんです。ホッとしましたよ。とにかく、嬉しかった。本当に大喜びでしたよ。飲めないお酒を朝まで皆で飲んで。馬鹿騒ぎしてね」

 その後、ムラカワは様々な賞を獲っていく。ムラカワの部屋には、七十枚ほどの表彰状と盾が、ところせましと飾られてある。写真家としても活躍。数々のアーティストのジャケット写真を提供。そして、映画を次々と撮り出しては、発表していく。


 ムラカワが映画製作スタッフを引き連れ、カラオケ屋に向かう。男三人。歌うは決まって『ボウイ』、『徳永英明』、『吉田拓郎』。メロンソーダを飲み干した、ムラカワが笑った。

「こんなに炭酸ばかり、飲んでたら、太っちゃいますよね。ほんまに。ただの独身のおっさんですよ。メタボのおっさん」

 最後に、ムラカワに聞いてみた。

「ムラカワさんにとって、芸術の流儀とは」

「ううん。頭でっかちではダメでしょうね。後は、めんどくさがらずに、とことんやることかなぁ。遠いから、やめとこう。とか、雨やから、やめとこう。とか、言わないこと。作品に生き方が出ますから、やっぱり、芸術は、きれいに汚すもの。だと思いますね。絵にしても映画にしても、写真にしても、詩にしても。それが流儀といえば流儀ですね」


 神の色を持つ男。ムラカワアオイ。最大の可能性を秘めた、芸術に自分自身の全てを売った男。彼には、まっすぐな、とことん、まっすぐな、未来が待っている。



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