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ラスト・ティーガー

作者: Relaxin'

戦車と言えばティーガー

鼓膜が破れるかと思うほどの轟音が止んだ。辺りはスターリンのオルガンのせいでひどい有様だ。美しいベルリンの町並みは一体どこに消えてしまったのか。

「ルンベルク少尉、異常ありません。戦えます」

「ああ」

長年ともに戦ってきた操縦士の冷静な声を聞いて、私は静かに闘志を燃やし始めた。

これが最後の戦いになる。

「こちらベンド。メイデン、シュヴァルツ、応答せよ」

虚しく響く空電音。

最後まで付き従っていた我が小隊のティーガーも撃破されたらしい。

ワルキューレの祝福が、私たちのティーガーにあることを祈った。

「お客さんだ。先頭からやれ」

ハッチのペリスコープから眺めていた一本道に、カーキ色の軍服を着たソ連兵をのせたT-34/85が4両進んできた。

「了解」

わずかに砲塔が動き、長い8.8センチ主砲が獰猛なコブラのように狙いをつける。

敵は全く気付くことなく死の顎に飛び込もうとしている。こんな戦いの素人に、我がドイツは滅ぼされようとされているのか。私は唇をきつく噛み締めた。

「フォイエルッ」

私の号令と同時に狙いすました主砲から、徹甲榴弾が火の玉となって飛び出した。

先頭を走っていたT-34/85の土手っ腹に命中、車体砲弾庫に引火したらしく、派手に爆発した。

「次、最後尾」

「了解」

素人め。

いきなり先頭が吹っ飛ばされ、残りの3両は歩兵を降ろすことなく砲塔を旋回させた。あれでは歩兵が巻き添えをくって死ぬ。

「フォイエル!」

2発目も外れることなく、最後尾のT-34に命中した。炎に巻かれた歩兵が地面をのたうちまわる。

「気付かれたな。パンツァーフォー」

静かにしていたマイバッハエンジンが低い唸り声を上げる。履帯が軋み、57トンあるティーガーが前進を開始した。

「掃射」

前方機銃が豆が弾けるような連続して発砲音を響かせる。逃げ遅れた歩兵が鮮血をまき

「横に回られると面倒だ。左からやれ。右に少し回せ、昼飯の角度だ」

残ったT-34は二手に分かれ、私たちを挟撃しようしてくる。とりあえず、左のT-34を潰す。

「微速前進。バカめ、線路を越えて土手っ腹を晒す気だ」

線路を挟んで待ち構えている私たちに向けて全速力で突っ込んでくる。距離を詰めなければ正面から、このティーガーの装甲は撃ち抜けない。だが、それは自分達の危険も増大する。蛮勇だ。

「徹甲弾。フォイエル!」

線路の土手を越えるために無防備な腹を晒した瞬間に8.8センチ砲が火を吹く。

しかし、それと同時にT-34が放った85ミリ弾が前面装甲に当たり、車体が大きく揺さぶられた。

私は不覚にもペリスコープに額を強く打ちつけてしまったらしく、ねっとりした血の感触が肌を伝う。

「ちくしょう、やられた」

「ペリスコープが…!」

「少尉、敵が回り込みます!」

うめき声とともに矢継ぎ早に報告が飛ぶ。慌ててペリスコープを覗き込むと、残ったT-34は、すでに線路の土手を渡りきり、側面に回り込んでくる。

「全速後進!砲塔右旋回!」

ティーガーの巨体がゆっくりと下がり、重々しい音とともに砲塔が敵に向けられる。

敵も相当焦っているらしく、走りながら撃った次の弾は、全く違う方向へ飛んでいった。

「フォイエル!」

外れた。

「次弾急げ。停車」

だが、敵の方が早かった。またもや、恐ろしい衝撃が車体に走った。

しかし、戦車の王たるティーガーの装甲は打ち破られなかった。

「問題ありません、少尉!」

全ての機能が正常だ。

「フォイエル!」

巨大な砲が発射の衝撃で押し下げられる。土煙の向こう側で、派手な火の玉が見えた。

「ここにいては危険だ。操縦士、微速前進。警戒を怠るな」

「ヤー!」

私はそろそろとハッチを開けて、周りを見渡した。

ベルリンが、燃えている。

あの中では、まだ勇敢に戦っている兵士が、助けを待つ市民達がいる。

助けなくてはならない。そのためのティーガーだ。この牙が折れる時まで、私たちは戦うのだ。

私はベルリンを埋め尽くす紅い炎を目に焼けつけ、ハッチを閉めた。

戦いの地へ、最後のティーガーは前進を始めた。

予告通り、ティーガーのお話です。

ベルリン戦というと第9軍やアラビアンナイト旅団に目が向きがちですが、あえて今回は全く無名のティーガーを描きました。

次はなに書こうかな…。

ではでは

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