8回転目
仕方なくプールに入る。あの女をぶん殴りたいけど回りに作業員も居れば黒スーツの男も居る。
あれ絶対ボディガードだろうし、下手に手を出したら逆にコッチがボコボコにされる。痛い思いはもう沢山だ。
少し自分の顔を触ると顔の腫れが大分引いてる。水とゼリー飲んで仮眠とった間に何があったのやら。
一先ず思考を切り替えて目の前の男を見る。
でかい。
俺の身長180cmちょいだが、その俺から見ても相手は頭一つ高い。
こんなの相手にどう立ち回れっつーんだよ、っていうか武器寄越せ。
拉致したこいつらに対して色々と思考をしていると、目の前の男が走り出した。
水の所為か動きは遅い、が、同時に俺も水に脚を取られて遅い。
殴ってきたのを避けようと横に避けるが水の抵抗で思うように避けれず捕まってしまう。
掴んできた腕を取り、指を極める。
親指をへし折った。相手の男が折れた指を庇う用に反対の手で殴ろうとしてくる。
その腕を掴み、投げ飛ばす。
そしてそのまま相手の上に馬乗りになって頭を水に沈める。
両手に力を込めて全力で沈める。
ここを逃したらまた痛い目に会う。そんなのはイヤだ。一層腕に力が入る。
パスッ、パスッ、と音が鳴ったと思うと、腕から血が溢れていた。
討たれたと認識した途端、腕に力が入らず馬乗りになっていた男にひっくり返される。
「だめよぉ?腕力で勝っても意味が無いんだから。ちゃんと貴方の力で勝ちなさい」
腕に走る激痛と、口や鼻から漏れる空気。痛みと苦しみで焦る頭。
形勢逆転、先ほどまで相手の首を絞め、頭を水へ沈めていたのを逆にやられる。
無我夢中で『回す』モノを探す。
だが見つからない。自分の服にボタンでも有ればソレを使っただろうがこの服にボタンは無い。
酸欠で思考が回らなくなり、ついにもがいていた手が水へと沈む。
「あら。仕方ない、引き上げましょう。一応大事なサンプルだから殺したら駄目と言われてるし」
女が作業員に指示を出そうとした時、変化が訪れた。
黒スーツの男が喚きだしたのだ。
何事かとプールを覗くと、春樹を中心にプールの水が回転している。
そして黒スーツの男に纏わり付くように水が押し寄せる。
黒スーツの男はすっぽりと水に覆われ、水は球体を形成していた。
男を覆った水は段々と赤に染まり始めた。1分後には真っ赤に染まり、中の状態は一切見え無い。
だが中のモノが無事じゃない事は確実だろう。時折水球から落ちてくる男のパーツがそれを知らせている。