第八話 長男と友人と大学でのできごと1
久しぶりに、今日は朝から真面目に大学で講義を受けていたおれ。
今日の履修科目の講義も全て終了し、さてどこに行こうかと考えてながら大学のキャンパスを歩いていた時、背後から不意に誰かが声をかけてきた。
「おう、コウタ」
その人物を見た途端、おれのテンションは一気に下がった。
「なんだ、宇宙戦艦かよ」
「宇宙戦艦って呼ぶな! 知らない人が聞いたら、苗字が宇宙で名前が戦艦だと思われるだろうが!」
思わねぇよハゲ。
「で、なんか用か。大ヤマト」
「大は余計だ! あ、でも、将来ビッグになるおれには相応しいかも?」
「相応しいかも? じゃねぇよ。ハゲのくせになにがビッグだハゲ。おまえの名前なんて別になんでもいいんだよ。このハゲ王国の調子こきハゲ大王が」
「意味分かんねぇ呼び名をつけるな! あ、でも大王ならもしかして偉いのかも? あとハゲてないから! ハゲてないかんね!?」
何を興奮しているのか、ごちゃごちゃとやかましくわめいているヤマト。
ワックスやらヘアスプレーやらで重力に逆らった髪形を作り出し、ラインストーンやらラメやらがいっぱいに施された服で全身をコーディネートしている。俗に言う、ギャル男ってやつだ。
音楽やら芸能方面でなにかしらの活動をしているわけでもなく、本気でスポーツもやってこなかったくせに、二十歳にもなって「おれは将来ビッグになる」と言ってはばからない、要はイタイ子である。
中学、高校とこいつと同じ学校に通う羽目になったってだけで自殺願望が芽生えてくるほどうんざりだってのに、大学も同じになるわ、専攻学科まで同じになるわで散々だ。運命の女神ってやつがいるんだとしたら、おれに嫌がらせして抱腹絶倒してるとしか思えない。
誤解のないように言っておく。
おれは別にこいつのことが嫌いなわけではない。ただ、うざいのだ。
腐れ縁でちょっとつるんでいるというだけで、こいつと同じ類の人間だというレッテルを貼られていると考えると、おれは恥ずかしさで悶えそうになる。
「いやー、しかしもうすぐゴールデンウイークですなー。コウタさん」
もみ手をしながらこちらにすりよってくるヤマト。うざい。
「……言いたいことがあるなら言えば?」
「オンナ紹介しろ」
三秒前までの卑屈さはどこへやら。ヤマトは簡潔かつ傲慢な希望を述べてみせた。
というか、ゴールデンウイークとオンナを紹介することには一体どんな因果関係があるのだろう。
まぁ、こちらとしてもただでそんな話を飲む気はない。向こうにメリットがあるのだから、交換条件を持ちかけるくらいの権利はおれにもあるはずだ。
「じゃあさ、オンナ紹介したら、おまえ死んでくれる?」
「死なねぇよ! そのなにかを期待する無垢な子供のような目はやめろ!」
「じゃあそんな条件は飲めません」
「おまえなぁ、おれみたいな未来の偉人がそんな小さなことで死んだら、国民全体のテンションに関わってくるだろうが」
「そうだな。うわっしょーい! らっせーらっせーらっせーらー! ってなるだろうな」
「なんでテンションマックスでお祭り騒ぎなんすかね、そこ!」
自分の人望のなさにまったく気付いていないヤマト。ここまでいくと呆れるを通り越して感心する。
「とにかく、期待してるからな! ゴールデンウイークを一緒に過ごせるオンナのコがほしいんだから、おれ」
「しかし、その期待は考えうる限りもっとも最悪な形で裏切られることを、ヤマトはまだ知らないのであった……」
「不吉なナレーション付けるな!」
現実と季節感がずれまくっていますが、そこはスルーでお願いします。
あと、このお話は後で若干、加筆修正するかもです。