社畜、川畑浅也(1)
金属製のドアから入った厨房は生臭かった。
チェーン店のラーメン屋さんは開業から3年も経っているのだから俺の目には何もかもが汚く見えた。薄汚れた床、錆びた調理場、飲食店特有の大きな冷蔵庫には埃が積もっている。3ヶ月もいればなにも感じなくなる。
なによりも鼻を貫く魚の生臭さ、そして暑い。ここで俺は立派な社畜になれるんだと確信は持ちたくなかった。
今年の新入社員は僕一人だった。
面接段階から僕1人しかいなかった。面接の時はテンションでわからなかったが、それもそのはず。後からネットで調べたら真っ黒だった。そんな真っ黒を後押しするかのように、先輩方に職場見学の時と同じ覇気は感じられず、お客様と接するように俺と接する
「仕事タノシイナ!カワハタ!」。
酷い、なんて酷い環境なんだ。
なによりも辛いのはお客様がお帰りの際の
「あの店のが美味しくね?」
お客様が当店自慢の魚介系スープで大層お汚しになられたテーブルを拭きながら、なぜこの仕事を選んだのかと心から問うことができた。こんな仕事だから求人は僕1人。みんなしっかりしてるなぁ、ま、そのおかげも後押ししてすんなり採用されるわそりゃ。
新人だった頃とは違い、俺も調理場に立つことを許された。夢見ていたラーメン作りは覚えることが多くなにより暑い。いやー麺が茹でられてる横で皿を拭くのは大変だなぁ。ホットな麺とは逆にクールな面々のおかげで、4月のテンションを高いところから叩き落とされて今月分給料を手にした。正直もう給料が1番の心の拠り所である。くたばれ、あの時給料に釣られた俺...
週休2日だったはずだがいつの間にか週に1日休めるかすら怪しくなっていた。それでも久々の休みだ、ゆっくり休みを謳歌プルルルプルルルプルピッ
「あ、もしもしカワハタ?悪いンだけど今からキてくれナイ?いヤー、人手が足リナクテサー!」
心地良く流れた月日は一変、いつのまにか暑くじめじめとした7月ごろとなっていた。