「初対面」
「あの時の男だな、お前」
ギロリと吉平が男を睨んだ。
「あの時………?」
守道の中でふと疑問が浮かんだ。
あの時……?
それは、一体いつのことだ。
守道は眉間にしわを寄せて首を捻りながら、記憶を逆行させた。
吉平がいつもと違う行動をとったことは、最近の日常でなかったか。
飄々した様子で笑い、守道や吉昌を困らせる時とはどこか違う行動は……。
「………あ………」
一頻り記憶を遡り辿り着いたのは、出立前日。
あの日、吉平が朱雀門から大路をじっと睨むようにみつめていた覚えがある。
聞いても誤魔化された。
いつもの飄々とした様子で。
おかしい、いつもと違う。
確かにあの時、吉平に対して疑問を持ったのだ。
「………くくく……っ」
ふいに、男が笑った。
ゾクリと身の毛もよだつような低い声で。
「何がおかしい……っ!?」
体から溢れそうなほどの恐怖を抑えながら、吉平の背後から守道は叫んだ。
「賀茂守道……お前をこの手中におさめられれば……」
「ほざけ。 みすみす守道を渡すと思ってるのか」
ニタリと笑った男に鋭く言い放ったのは守道ではなく、やはり吉平だった。
背中を向けられていて、表情は見えない。
しかし、声でわかる。
射殺すほどの鋭い眼光で男を睨みつけているのだと。
けれども、わからないことが一つだけある。
何故、あの男に自分が狙われているのだ。
「守道、お前が檻の楔だ……。 お前が欲しい……檻を、壊すために……」
「檻……?」
守道は呟きながら目を潜めた。
檻とは何だ。
聞いたことがない。
守道の脳内に溢れ出す疑問を他所に、男はゆっくりと一歩ずつ前へ進み出す。
逃げろ。
本能的にそう感じた守道が一歩後ろへ下がった時。
「動くこと能わず
触れることを禁ず」
凛とはりのある吉平の声音。
口から紡がれたのは、動きを束縛する強い霊力を込めた言霊だった。
「………ほう……」
ピタリと、男の動きが止まった。
しかし、慌てる様子もなく、男はただニタリと笑うだけだ。
「さすがは安倍晴明の長男……。 呪力はやはり、普通の子どもとは違うらしい……」
不気味な笑みを浮かばせる顔とは裏腹に、言葉には苛立たしさが滲んでいる。
吉平は男を睨み付ける目付きは変えないまま、口を一文字に引き結んだ。




