あの感覚をもう一度
「よし、では早速……」
浸っていたのもつかの間。
守道はいそいそと沓を脱ぎ出し、それを抱えて小走りに泉へと近づいた。
「あの時の僕らは疲労感で一杯で、純粋に遊び感覚で渡る余裕なかったもんね」
水面を覗き込む守道の隣で、吉平も沓を脱ぎ始めた。
どうやら、吉平も水面を歩く不思議な感覚が気に入っていたらしい。
鼻歌でも歌いそうなほど弾んだ声音から、それが手に取るようにわかる。
しかし、その向こう側にいる吉昌はというと。
「……ようやく……」
歓喜に満ちた声をあげた。
聞こえたその声に振り返ってみると、吉昌が水面のすぐ傍らで膝を折り、そっと手を伸ばすところだった。
ピチャン、と音をたてて吉昌の手が水面に沈む。
沈んだその手を中心に、規則正しい波紋が音もなくただ静かに水面を滑っていく。
一体、何をしているのだろうか。
そんな疑問をふと感じた守道である。
「……吉昌……?」
「水面に触れた足は浮く。 それなのに、触れた手は沈んでしまう……」
不思議だと吉昌が小さく呟いた。
よく見ると、その目は生き生きと輝いている。
あぁ、やはり。
守道はどこか納得したような顔で頷いた。
彼はどうやら、遊ぶために来たのではないようだ。
あくまでも、自身の知識欲を満たすべく来ただけらしい。
しかし、だ。
「……うーん……なんだかなぁ……」
真面目な吉昌らしいといえばそうなのだが。
それではあまりにも味気ないではないか。
それよりも。
むしろ、遊ぶためだけにここへ来た守道と吉平が幼稚に思えて、なんだか恥ずかしすぎる。
「ねぇ、吉昌」
「何ですか、兄上?」
ひたひたと足音をたてて水面を歩いていた吉平が吉昌の前で膝を折り、顔を覗き込んだ。
「一緒に遊ぼうよ、吉昌」
「遊んでますよ、ちゃんと。 見てわかりませんか?」
何を今さらというような吉昌の返事に、吉平の動きが止まる。
それを背後で見守っていた守道は何も言えず、目を半眼にして口をみっともなく歪ませた。
一体どこが、だ。
どこをどう見ても、遊んでいるようには見えない。
頭の中にある知識に基づいて、未知なものへさらなる知識の開拓を試みている真っ最中にしか見えないのである。
これが真実遊びであるのなら、一つ疑問が浮かび上がった。
吉昌、お前は一体歳はいくつなのだ。
とてもじゃないが、十三歳のあどけない少年にはまったく見えない。
むしろ、二十歳を越えて三十歳目前の落ち着いた雰囲気で腰を据える男にそっくりだ。




