同じ髪質
「なあ、俺は今から泉を歩いてこようかと思うんだけど、お前達はどうする?」
仲良く髪を整える安倍兄弟に、守道はそう問いかけた。
「うーん……どうしようか」
吉平は吉昌から視線を逸らすことなく迷うように呟いた。
そして、少し体を前に傾けて、後ろから吉昌を覗き込むようにみつめた。
「吉昌はどうする?」
「兄上や守道が行くのなら、行きます」
吉昌の返事に吉平は淡い笑みを浮かべ、口をほころばせた。
「じゃあ、行こうかなぁ……」
吉平は吉昌の髪を紐で束ねて、やがて守道を振り返った。
「よし! じゃあ、早速……」
守道は勢いよく立ち上がり、茵の脇に放っていた狩衣に着替える。
そして、髪の寝癖はそのままに元気よく部屋を飛び出した。
「ねぇ、守道は髪はそのまま?」
後ろを慌てて追いかけてきた吉平が守道の顔を覗き込ながらそう聞いた。
その問いにしばらく考え、守道はこくりと大きく頷く。
「俺、元々くせっ毛だし、櫛でせっかく整えてもすぐぼさぼさになるから、いい」
「そういえば、光栄様も同じでしたね」
吉平とは反対側から、吉昌が顔を覗かせた。
確かに、そうだ。
守道の髪質は、光栄にそっくりだ。
光栄もまとまりのない髪に結構苦労していたりするのだ。
「そうそう。 なんでも、あまりに手入れが面倒だからって、思いっきりばっさりと切ったんだよね、父さん」
守道は今ここにいない光栄を思い浮かべ、苦笑した。
あの時は、家族全員で目を剥いた。
あの優しく、おっとりとした祖父・保憲が思わず口をあんぐりと全開にして、言葉を失ったほどだ。
元々、光栄は背中にまで届くほど長い髪だった。
しかし、そこはすぼらな光栄のことだ。
長い髪は髷を結うには必要なものだが、光栄にとっては邪魔の代名詞だったらしい。
光に透かすと高貴な金色の糸にも似た長くさらさらな髪は、それはそれは美しかったのに。
それはもうあっさりと何の躊躇もなく切ってしまったのだ。
さすがに守道はそんなぶっ飛んだ行動はしないが、今のままの長さをずっと保ち続けるだろう。
守道は自身の癖毛を撫でつけながら、安倍兄弟と共に表へと出た。
きらきらと柔らかな朝の日差しを浴びて輝く水面。
青々と生い茂る木々と澄み渡る青空がそれに映り、なんとも幻想的だ。
「すごい自然……」
守道は眩しさに目を細めながら、都であまり見ることの叶わない大自然の神秘に浸っていた。




