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賀茂陰陽伝  作者: 東雲しはる
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愉快な幼馴染み

「ねぇ、守道……酷いと思わないかい? これでも、かなり急いでるんだよ」


吉平はしごく残念そうな風情で空を仰ぎ、懐から取り出した閉じたままの扇を口にあてた。

そんな吉平を守道は呆れ気味に半眼で見つめる。

どこをどう見れば、急いでいるように見えるのだろうか。

吉平には悪いが、急いでいるようには全く見えない。

守道には、いつも通り余裕綽々とのんびりしているようにしか見えていないのだ。

そんなことを考えている守道の目の前で吉平は小さく息をつき、目を細めて口を開いた。


「守道、一応聞くけど……今失礼なことを考えていないかい?」


吉平は扇を口にあてたまま、じろりと訝るように視線だけを守道に向けた。

そんな吉平に守道は腕を組み、感心するように何度も大きく頷いてみせる。


「おぉ、わかるか。 さすが幼馴染み」


賀茂兄弟と安倍兄弟は互いの父が友人であるため、幼い頃より交流があった。

毎日とまではいわないが、二日に一度は顔を合わせていただろう。

そんな間柄だからこそ、失礼極まりない言動が許されるのだ。


「ねぇ、守道」

「何だよ、さっきから…」


守道は何度も呼ばれ、少し不機嫌な表情で聞き返す。

どうせなら、用事は一度に手早くすませてほしい。

足止めもいいとこだ。

吉平は何度か瞬きながら、守道に不思議そうな表情で首を傾げてみせた。


「出仕はいいのかい……?」

「他人事のように言うなーっ!!」


聞こえてきた吉平の言葉に、守道は思わず全身の力を込めて全力で叫んだ。

その叫びに驚いた人々は少しずつ遠ざかり、二度見しつつ隣を通り過ぎていく。

邸の屋根にたむろっていた雀達も、驚いて一斉に飛び立っていった。

本当に、何を考えているのだこいつは……。

誰のせいで守道が足止めされていると思っているのだ。

それに、遅刻常習犯の吉平に心配されたくない。

どうせなら、守道の心配より自分の心配をしろ。

守道は吉平をいささか疲れた表情で見つめ、大きく深いため息をついた。

幼い頃からずっとそう。

どこに行くにしても、金魚のふんよろしく後ろから吉平と吉昌が必ずついてくる。

ただ静かについてくるだけならいいのだ。

しかし、そういうわけにもいかず、吉平は守道に毎度ちょっかいをかける。

そして、守道は足止めされてしまうのだ。

今の状況と同じように。

吉平の言動一つ一つに過剰反応してしまう守道も悪い。

しかし、幼い頃からの習慣だったため、考えるよりも先に体が反応してしまうのだから仕方ないのだ。


「もー……先に行くからな、吉平!」


付き合っていたらきりがない。

しかも、吉平に付き合っていたおかげでかなり時間を使ってしまった。

多分、今から急いでも、もう間に合わないだろう。

しかし、急ぐだけ急がなければ。

そう考え、守道は吉平を置いて走り出す。


「あ、ちょっ……守道っ!!」


脱兎の如く駆けて行く守道を、吉平は慌てて追いかけた。



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