守道の失態
しかし、その時。
不意に泉の見渡せる簀子側の戸の向こうから気配を感じた。
それはとても清らかで、全く穢れのない気配。
この気配は確か……。
首を捻りながら吉平を見上げると、淡い笑みが返ってきた。
多分、そうだ。
間違いない。
「椎菜?」
守道が名前を呼ぶと、閉じられていた戸がゆっくりと音をたてないように開かれた。
開けた戸からまばゆいほどの光が差し込んでくる。
それを背後から浴びながら現れたのはやはり、昨日出会った少女・椎菜だった。
「おはようございます、守道様、吉平様」
「おはよう、椎菜。 吉昌はまだ寝てるけど、気にしないで」
守道は慌てて起き上がって体勢を整える。
そして、申し訳なさそうに眉尻を下げながら椎菜に声をかけた。
しかし、椎菜は柔らかな笑みを浮かべて、とんでもないと首を横に振る。
「朝餉を準備しようと思っていたのですが……まずは食事を摂られれかと聞きにきただけですので……」
その椎菜の言葉に、守道は柔らかな笑みを浮かべた。
用意をしてくれるのであれば勿論、と答えるつもりで口を開く。
しかし。
ぐぅ…とお腹が情けない音をたてた。
これは、誰のと問うまでもない。
守道の盛大なお腹の音だ。
しかし、かなり絶妙な間合いだった。
その音を隣で聞いた吉平が、思わず吹き出す。
そして、肩を震わせて笑っている。
「さすが守道の体は正直だし、間合いも絶妙だったね」
「悪かったな、鳴るものは鳴るんだから仕方ないだろ」
昨日は結局、何も口にせずに眠ってしまった。
そんな守道は、現在成長期真っ只中。
食べ盛りだし、鳴るのは生理現象なのだから仕方ないだろう。
くすくすと笑う吉平に守道は口をへの字に曲げながら、眉を吊り上げて睨んだ。
しかし、吉平の笑いは止まらない。
それを恨めしくみつめ、ふと視線を滑らせた。
守道の視界が捉えたのは、椎菜だ。
その椎菜は口を袂で覆い、小首を傾げながら柔らかな笑みを浮かべている。
一体、今の守道は椎菜にどのように映っているのだろうか。
きっと、情けないような姿でその目に映っているはず。
あぁ……、穴があったら今すぐに入りたい。
幼馴染みの吉平や吉昌に聞かれるのならまだしも、椎菜に聞かれてしまうなんて……。
情けない。
情けなさすぎる。
守道は頭を抱えながら、深いため息をついた。




