静かで優しい朝
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瞼越しに感じる、柔らかな日差し。
さわさわと、頬を撫でる風。
守道はそれらにより、ゆっくりと深い眠りから目を覚ます。
しかし、まだ完全に目覚めてはいないようで、まばたきは目で追えるほど遅い。
「んー………」
守道は小さく唸り、ごろりと寝返りをうつ。
すると、その先にはすうすうと安らかな寝息をたてて眠る吉平がいる。
その向こう側にいる吉昌も、同様に眠っているようだ。
しばらく二人をみつめ、眠たげに目を擦る。
静かな、優しい朝だ。
しかし、ここはいつもの自邸ではない。
吉野の山中だ。
昨日一日で、沢山の出来事があった。
今まで感じたことのない恐怖を味わった。
それは今も鮮明に思い出せて、震えまでもが甦る。
ぶるりと身震いをした守道に、不意に手が伸びる。
伸びたその手はゆっくりと守道の手に触れ、ぎゅっと強く握られた。
守道は思わず目を大きく開く。
伸びてきた手は吉平のもの。
眠っていたはずの吉平の瞼がゆっくりと開き、優しい雰囲気を纏う瞳が守道をみつめていた。
「よし、ひら………?」
「おはよう、守道」
手はしっかりと握ったまま、吉平は優しげに微笑んだ。
「昨日のことを、思い出していたの?」
微笑んだまま、落ち着いた声で守道にそう問いかけた。
震えている理由など、吉平にはお見通しのようだ。
言葉を多く交わさずとも、見ただけで理解してくれる。
さすがは、幼馴染みといったところだろうか。
「あの、赤い桜……」
「うん。 すごい邪気だったね」
呟いた守道に、吉平は同調するように頷いた。
赤い桜など、見たことがない。
都に、そんな不気味なものがあるはずないのだ。
「父さん達は、知ってるのかな……」
「どうだろうね。 父上は何も言わなかったし……光栄様も何も言わなかったんだろう?」
「うん………」
吉平の柔らかな声に、守道は緩慢に頷いた。
確かに、光栄は何も言わなかった。
けれども、言わなかっただけという懸念も捨てられない。
「……本当に、どうなるんだろう……」
不安が、昨日から消えない。
ずっと紡いできた、家族の絆に綻びが緩やかに忍び寄っている気がする。
ただの直感だ。
だが、外れている気はしない。
「守道」
急に表情が曇った守道を心配するように、吉平が名前を優しく呼んだ。




