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賀茂陰陽伝  作者: 東雲しはる
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不思議な空間


―――――

――――――――――


場所は、吉野。

青々とした昼の空はいつの間にか赤くそまり、夕刻を迎えていた。

赤い桜の地から進路を変更したのだが、一体どれほどの道のりを歩いただろうか。

多分、すでに二刻程は歩いているだろう。


「ねぇ……どこにいくの、紅姫?」


聞いたのは守道だ。

進路変更してから、何故か紅姫が喋らなくなった。

ただひたすらに地面を泳ぎ、道を急いでいるのだ。

そんな紅姫を追い、吉平や吉昌も初めは問題なく進んでいた。

しかし、ここは山道。

平坦な都の道しか今まで歩いて来なかった三人だ。

慣れない山歩きに、しだいに疲れを見せ始めていた。


「どうしたんだろうね……紅姫」


今までの元気な様子は消え、疲れきった声で吉平が呟いた。


「一体、どこへ向かうんでしょうか……」


吉昌も疲れきった声で呟いた。

三人共に、思いは同じだ。

ずっとこの調子で歩き通している。

いいかげん、体力的に限界だ。

守道は、重いため息をつく。

まだ道のりが続くのなら、せめて休憩させてもらおう。

そう思って口を開いた時だった。


『着いたわよ』


ようやく届いてきた紅姫の声は、その一言。

紅姫を目で追っていたことと、疲れきっていたこともあり、ずっと地面ばかりを見て歩いていた。

そんな守道達は、一斉に顔を上げる。


「わ………すごい……」


守道は、思わず感嘆の声を上げた。

ずっと木々が密集し、空を覆い被せるように枝と葉が邪魔をして、ひどく狭い印象だった森の中。

しかし、いきなり現れたのは、空まで止めどなく見渡せるほどぽっかりと開いた空間。

地面には柔らかい芝が生え、淡い黄緑に彩られている。

それより少し先に視線を滑らせると、夕暮れの橙にそまる空を鮮やかに映す、清らかな泉の水面。

キラキラと反射する太陽の光と混ざって、なんとも美しい。

思わず見入って、知らず知らずのうちにため息がこぼれるほどだ。

しかし、そこはただ美しいだけの場所ではない。

夕暮れを映す水面の中心に、寂しく邸が佇んでいる。

その邸は、都の賀茂邸となんら変わりのない、普通の寝殿造りのもの。

ここは、人のいない場所。

そのはずなのに、やけに新しい。

見るかぎり、藁葺き屋根にも、垂れ下がる御簾も、簀子にも傷みは全くない。

新品では、と思えるほどだ。


「…………あれは……何なの、紅姫……?」

『あれは………』


守道の問いかけ。

それに答えようと、紅姫が口を開いた時だった。

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