祖父への疑念
「言ったんだ、大丈夫だって……」
疑いたくない。
いつだって優しくて温かい。
陰陽師として凄腕の祖父。
誇りだと胸を張って言える祖父を、疑いたくない。
けれど、疑わずにはいられないのだ。
本当に大丈夫なのか。
何もないのか、と。
その心の中の呟きが届いたのだろう。
紅姫が不意に浅いため息をついた。
『あんた達を、もう一ヶ所連れて行く所があるわ』
「紅姫?」
ほしい答えとはだいぶ違った紅姫の声。
疑問には答えてくれないのだろうか。
次の場所に行く前に、答えてほしい。
しかし、紅姫はやはり答えない。
代わりに、再び守道の体から飛び出し、ピシャンと音をたてて地面に潜ってしまった。
黙ってついてこい。
紅姫の背中はそう告げているように見える。
なんだか、納得出来ない。
口に出して伝えたいが、紅姫は聞く気はなさそうだ。
すいすいと、地面を泳いで行ってしまう。
「……とりあえず、追いかけましょう。 話はそのあとでたっぷりと……ね、守道」
むっすりと口をへの字に曲げた守道に、吉昌が静かな声で促す。
「………うん」
まだ納得していない守道はむっすりとした表情のまま、ゆっくりと紅姫を追いかけ始めた。
守道の背中をしばらく眺め、吉平と吉昌は顔を見合わせる。
そして、困ったように苦笑いを浮かべた。
守道は意外と頑固なところがある。
普段はあまり見せないのだが、ここに来て不満が頂点に達しているようだ。
吉平は仕方ないね、と呟いて吉昌と共に歩き出す。
「ねぇ、守道」
「………何だよ」
柔らかい、慰めるかのような吉平の声。
今は全ての言葉を素直に聞くことが出来る心境ではない守道は、冷たさの含む声で答えた。
しかし、吉平は怒る様子もなく、優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ」
耳に届いたのは、その一言。
「…………は?」
その一言の意味を解せなかった守道は、眉間にしわを寄せながら吉平に顔を向けた。
一体、何が大丈夫だというのだ。
吉平の意図が、全く掴めない。
それは吉昌も同じのようで、訝しい眼差しを向けている。
「大丈夫。 何があっても起こっても、独りぼっちじゃないんだから」
「………吉平……?」
聞いたらさらに、吉平の意図が迷子になってしまった。
一体、何を伝えたいのだろう。
首をかしげた時、不意に吉平が守道と吉昌の手を引っ張って走り始めた。
「うわっ、吉平!?」
「ちょっと……っ、一体どうしたんですか、兄上!?」
叫ぶ守道と吉昌の声など、吉平は全く聞いていない。
代わりに返ってきたのは、楽しげな笑い声と、笑顔だけだった。




