邪気を放つ赤い桜
「これは、何……?」
聞いたのは、吉平だ。
しかし、紅姫は問いには答えない。
ずっと前を向いたまま、先へ先へと進んでいる。
本当に、このまま進んでいいのだろうか。
そんな不安を抱えたまま、守道達は後ろをゆっくりとついていく。
ぎゅっと強く握りしめた拳は、滲み出る汗で濡れている。
進めば進むほどに、歩いている足が鉛のように重くなってくように感じてしまう。
だからだろうか、初めは軽かった足取りも今ではその半分の速さすらない。
全身が重い。
何かがずっしりとのしかかっているような……。
どこか夢心地に近い感覚が、少しずつ現実味を帯びてきた頃。
守道達は、己の目を疑う光景に出会った。
ひらり。
ひらり。
不意に視界を横切った、小さな赤いもの。
それは、止めどなく空から降りそそぐ。
まるでその様が飛散する血ように見え、守道達は瞠目した。
不気味だ。
人がいない地で、それはあり得ない。
目の錯覚だとわかっている。
しかし、どうしてもその考えは頭から離れない。
目にしつこく焼き付いてしまっていて、離れないのだ。
守道は思わず狩衣の胸元を手繰り寄せ、ぎゅっとしわが出来てしまうほど強く握った。
苦しい。
呼吸が、上手く出来ない。
生きる上で当たり前なその行動が、頭から抜け落ちたかのように。
喘ぐように呼吸しながら、守道は視線をゆっくりとさらに上へ向けた。
「あかい………さく、ら………?」
自分でも驚くほど掠れた声で、なんとかその一言を紡いだ。
そう。
視線の先には、恐ろしいほど真っ赤に染まった桜。
ざわざわと音をたてながら、吹き渡る風に揺られていた。
本来の桜は、薄紅色。
満開になると、思わず立ち止まって眺めてしまうほど神秘的で心を奪われる。
しかし、これは違う。
恐ろしい。
とても。
あれは、普通の桜とは違う。
見た目だけでそう判断しているのではない。
感じるのだ。
普通の人では、感じないものを。
見鬼を持った者にしかわからないもの。
それは……。
「邪気……」
吉昌が不意に呟いた。
そう。
ひどい邪気を感じる。
あの赤い桜から、体の自由を奪うほどの重くねっとりとした気を放っているのだ。
これ以上は進めない。
進めば、確実に放たれる邪気に堪えられずに倒れてしまう。
こんな先にあるのか。
保憲の言っていた、集落跡という場所が。
限界だ。
守道も吉平も吉昌も。
話すことはおろか、前へ進めない。
呼吸すらままならないのに、どう進めというのだ。
そう、心の中で叫んだ時だった。




