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賀茂陰陽伝  作者: 東雲しはる
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常識外れの偉大な式


―――――

――――――――――



今歩いているのは、長く人の手が加わっていないのだろうと窺い知ることが出来る、大小様々な大きさの石がゴロゴロと転がる足場の悪いでこぼこ道。

そこはけして、荒れた地面以外のなにものでもない。

そう。

地面以外であるはずはないのだが、守道は目の前の光景を見て、それを疑わずにはいられないのだ。


「地面を……泳いでる……」


まるで、そこが水の中であるかのように、すいすいと尾ひれを優雅に左右に動かしながら前へ前へと進んでいた。

その後ろを追う自分達も水面を歩いているような不思議な感覚になってしまう。

守道は、これと似た光景を自邸で見ている。

清らかな水一滴がゆっくりと水面に落ち、波紋を広げるような様を光栄の仕事部屋で。

しかし、あらためて泳いでいるのを目の当たりにしたなら、やはり浮かんでくる疑問は止められない。


「すごいね、さすが光栄様の式だよ」


呆然と呟く守道をよそに、吉平はこの光景を目の当たりにしても全く動じない。

それはすでに光栄を常識から外しているかのようで、疑問の欠片も感じない。

吉平もさすが、あの晴明の息子だ。

常識外れな光景は、見慣れているのだろう。

しかし、互いの父があまりにも常識外れの偉大な陰陽師だと普通が何なのか、たまにわからなくなってしまうのが現状だ。


「なんだか、似たような風景ばかりですね……」


ぼそりと、周囲を頻りに見渡していた吉昌が不意にそう呟いた。

その声に、守道も周囲を同じように見渡した。

吉昌の言う通り、進めど進めど石がゴロゴロと転がる荒れた地面に、背の低い草。

不規則に並ぶ木々ばかりの風景で、少しでも道を外れれば元の場所がわからなくなるだろうほどに。

そんなところを、自分達は無闇に何も考えず進んでいたのだ。

あらためて考えると、恐ろしい。

一歩間違えれば、きっと生きて出られない。

そんな気がする。


「紅姫がいてくれて、本当によかったよ」


地面を泳ぐ紅姫の背中に、守道はそう告げる。

すると、顔を前に向けたまま、紅姫は柔らかく口を開いた。


『ふふ……あんた達は森を歩くのは初めてでしょう? これに懲りて、無闇に森を歩き回らないことよ』

「はーい……」


紅姫は笑いを含む声で優しく諭しているが、守道には耳が痛い。


「なんだか……紅姫は母みたいな、優しい感じがするね」


守道と紅姫の会話を聞いていた吉平が、不意に呟く。

その声に、守道は弾かれたように顔を上げた。




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