結局悪いのは……
「こ、紅姫……?」
恐る恐る目を開いて見上げる。
視線の先にいる紅姫には、今までのような鋭く尖った怒りを纏う霊気はない。
きれいさっぱりと消えていた。
代わりにあるのは、夢の中と同じ、穏やかな霊気だ。
『初めからそう言いなさい』
「……………え?」
幼子をあやすような、優しい声。
耳に響いたその声に、守道はきょとんとした表情で紅姫をみつめ、ゆっくりと首を傾げた。
『わたしを誰だと思ってるの? あの光栄の式よ、知っているに決まってるじゃない』
「え………えぇぇっ!?」
紅姫の言葉に、守道は目と口をこれ以上ないくらいに大きく開いて驚く。
そのまま吉平や吉昌に視線を滑らせると、彼らも同様の表情をしていた。
さすが、あのずぼら陰陽師・光栄に仕える式。
まるで、知らないことも、出来ないこともないというほど立派な式だ。
しかし、そう思う反面、どうしてもっと早く教えてくれないのかと思ってしまう。
そうすれば、道に迷うことも喧嘩を始めることもなかったはずだ。
密かに考えてしまったことを瞬時に悟ったのだろう、ついっと紅姫のつぶらな瞳が細められた。
『わたしはあくまでも補佐よ。 自分からあんた達に手出ししたりしないわ』
「あぁ………だよねー……」
清々しいほど言い切ってしまった紅姫に、守道はあはは…と気の抜けた笑いを顔に浮かべる。
確かに、紅姫の言う通りだ。
光栄から渡された時、紅姫自身が言ったのだ。
どんどん頼ってくれ、と。
頼ってくれとは言ったが、自らの意志で助けるとは言っていない。
守道の体を自由に出入りすることだけは自分ですると言ったのだ。
ということは、守道が助けくれと言わない限り、口出ししないのか。
「あれ? もしかして………結局、俺の責任?」
『そうね、忘れていた守道の責任になるわね』
茫然と呟いた守道に、紅姫は小さな体を半分に折り曲げながら頷いている。
言葉なく見つめるしか出来ない守道を慰めるように、吉平と吉昌が背中を一緒に仲良く撫でてくれる。
どうやら、二人は怒ってはいないようだ。
それがわかっただけでもありがたい。
守道は吉平達の心遣いに感謝しながら、ゆっくりと紅姫に向かって頭を下げた。
「案内、お願いします……」
『いいわ、任せなさい!』
自分の情けなさに落胆した声で呟くと、紅姫は再び大きく頷いた。




