紅姫は強し
「いや、どうにかしてもらわないと困りますよ、守道」
すぐさま否定した守道に吉昌が間髪容れずにぐいぐいと詰め寄る。
吉平も押し倒さんばかりの勢いでさらに体を近づけた。
「そうだよ、困るよ。 守道はともかく、僕らがとくに」
それは、守道の身の安全はどうでもいいということか。
何だかとても非情で残忍な言葉であるように思えるのだが、気のせいだろうか。
守道は目を眇ながら安倍兄弟をみつめた。
「俺はどうなってもいいのかよ」
「うん。 なにせ、我が身がかわいい」
吉平はなんの躊躇いもなく、真面目な顔で大きく頷いた。
こいつ……本音を隠そうという気は欠片もないのか。
清々しいとさえ思える発言に、守道も怒る気は徐々に失せていく。
代わりに心の奥底に浮かんでくるのは、凄まじいほど重苦しい絶望感。
どうして、こいつが幼馴染みなのかという、運命への恨みがふつふつと沸き起こる。
『コソコソしない! 反省してるの、あんた達は!!』
静かに喧嘩を再び始めた気配を素早く察知した紅姫が叫ぶ。
「「「はい、勿論!!」」」
ああだこうだと言いつのらせても、やはり紅姫の怒号には敵わない。
守道達は思わずぴんっと姿勢を正し、少しのズレもなく同時に返事をした。
これ以上怒らせるとさすがにまずい。
早く機嫌を直してもらわなくては。
そうしないと、いつまでもここで反省させられっぱなしだ。
そして、正直に言ってしまおう。
迷ったのだと。
守道はごくりと生唾を飲み、怒りを全身で表現する紅姫をしっかりとみつめた。
「ねぇ、紅姫……?」
『何!?』
小さな子供がねだるような声で、守道は名前を呼ぶ。
しかし、紅姫は鋭い声で言い放ち、ギラギラときらめく目で守道を睨みつけた。
睨まれた瞬間、ひっと声をあげた。
全身には、ざわりと気持ち悪いほど鳥肌がたっている。
だらだらと大粒の汗をこめかみから顎へ流しながら口をぱくぱくさせている守道の手を、吉平が強く握った。
頑張って。
そう言っているのか定かではないが、この気遣いがありがたい。
吉平の手を握り返し、守道は心を定めて口を開いた。
「紅姫、集落跡の場所を知らない? 迷っちゃって……」
ちらちらと顔色を窺うように、今にも消え入りそうな声でようやく伝えた。
しかし、紅姫は答えない。
さらに怒らせてしまったかと思わずぎゅっと目を瞑った。
しかし、その瞬間。
ふう…と小さなため息が耳に響いた。




