紅姫、怒り爆発
『あんた達もよ、安倍兄弟! 返事は!?』
唖然と立ち尽くしている吉平と吉昌に、紅姫はさらに容赦なく怒号を放った。
ビリビリと痺れるような鋭いその声は、空気を振動させながら全体に一気に広がっていく。
それでようやく我に返った二人は頻りに目をしばたたき、ほぼ反射的に頭を同時に下げた。
「「ご、ごめんなさい……」」
紅姫のあまりの迫力に、守道達は今までとは違い、互いに仲良く体を寄せあう。
そして、手を握りあい、ぶるぶると体を小刻みに恐怖に震わせながら紅姫をみつめた。
相手の見た目は、池を泳いでいる何の変哲もない、ただの赤い鯉。
しかし、怒りで刺々しさを纏った霊力があの小さな体から声と共に放たれるたびに、鯉にはあるはずのない迫力が生まれる。
そして、普通なら愛らしいとさえ思えるつぶらな瞳すら、今はギラギラと止めどない怒りで不気味に輝いているように見えてしまう。
「あ、あれは何なの、守道!?」
ぶるぶると震えながら、吉平が守道に焦りを抑えられない声で囁いた。
そうか、吉平や吉昌が紅姫と会うのはこれが初めてなのだ。
いきなり現れた鯉が、浮いている上に喋っている。
この状況を突然押しつけられ、理解しないままに怒鳴られてしまい、さぞかし恐ろしいに違いない。
いつも飄々としていて明るく、問題児として名を馳せるあの吉平が真っ青な顔で震えているのだから。
「あの鯉は……父さんの式の紅姫だよ」
「光栄様の?」
聞き返してくる吉平に、守道は小さく頷いた。
しばらく守道をみつめ、吉平はちらりと紅姫に視線を滑らせる。
しかし、ギラギラとした目と目があい、思わずさっと顔を背けた。
「本当に!? 何だか、光栄様の人柄に似合わないほど荒々しい式じゃないかい!?」
「いや、本当は優しい式なんだよ」
納得出来ないといった風情で叫ぶ吉平に、守道は淡い苦笑を浮かべた。
いや、確かに優しかったのだ。
あの暗い闇ばかりの夢の中。
不思議な男の気配に襲われていたところを助けてくれたあの時は確かに。
「守道、とりあえず……あの光栄様の式、紅姫の怒りを鎮めて下さい」
「………え?」
呟かれた吉昌の言葉に、守道は目をしばたたきながら聞き返す。
鎮める。
あの、怒り狂った恐ろしい紅姫をか。
いや、それはどう考えても……。
「無理無理無理……っ」
守道は真っ青な顔で、首が取れそうな勢いで横に振った。




