喧嘩勃発
二人から同時に全力で叫ばれた吉平はさすがに驚いたのだろう、目を丸くしてしばたたいている。
そのままの表情で、吉平はやんわりと口を開いた。
「えぇ? 二人は道がわからないことすら気づいてなかったのに……責任転嫁かい?」
まるで、気づいていた自分の方が偉いだろうとでも言いたげな言葉だ。
確かに、一概に吉平だけが悪いとは言えない。
そもそも、気づいていなかった守道と吉昌の失態でもある。
しかし、だ。
わからないと理解していながら無闇に突き進むのはいただけない。
それもそれで、かなり極悪だと思えるのだが……。
本人はそうは思っていないようで、得意げに堂々と胸を張っている。
「責任転嫁なんて……お前が言うなお前が!!」
守道は眉を吊り上げたまま、無駄のない素早い動作で吉平に手をのばす。
そして、ぐいっと吉平のなめらかで柔らかい頬を力一杯につねった。
「痛い、痛いよ守道……っ!」
吉平は、うっすらと涙を目に浮かべながら、そう叫ぶ。
しかし、守道はやめようとはしない。
これは一応、お仕置きなのだ。
ぎゅっとさらにつねる手に力を入れた時、もう片方の吉平の頬に手がのびた。
そして、その手は守道と同様に容赦なくつねる。
両頬をつねられて痛みが倍増したのだろう、吉平の眉間にさらに深いしわが刻まれた。
「痛いってば! 吉昌までひどいっ!!」
「当然のお仕置きですよ、兄上」
頬をつねりながら、吉昌は冷たさの混じる平坦な声を放った。
そんな吉昌の顔を吉平は口をへの字に曲げて恨めしそうに睨んでいる。
どうにか仕返ししてやりたいというような吉平の感情が痛いぼど伝わってくる。
しかし、吉平は両手を守道と吉昌にしっかりと握られているために、それもままならない。
三人の感情がぶつかりあう今の状況はまさに一触即発状態。
誰かが喋っても動いても、激しい喧嘩になりそうだと互いに確信した時だった。
パシャン、と水面を跳ねるような音が響いた。
張りつめた緊張感漂う空気を払うかのように響いたその音に、守道は驚きで目を大きく開く。
そして、背後を勢いよく振り返った。
振り返った先には、優雅に宙を泳ぐ紅姫の姿があった。
『もう……っ、あんた達は一体いくつなのよ!? 子供みたいな情けない喧嘩はやめなさい!!』
「……はーい……」
まるで雷が天から降りそそいできた時の轟きに近い怒号に、守道は思わず体を竦めて小さな声で答える。
その隣の安倍兄弟も、突然の出来事に頭がついていけず、ただ唖然と硬直していた。




