親心
「実はもう一体、父さんから式を預かってて……。 その式と話してただけだよ」
「光栄様の式と?」
首を傾げたまま聞き返してきた吉平に、守道は肯定を示すかのように大きく頷く。
それをしばらくみつめていた吉平は、やがて柔らかな笑みを顔に浮かべた。
「いいねぇ、守道。 父上からこんなにも気配ってもらえて……」
羨むような吉平の言葉。
守道はその言葉を聞きながら、きょとんとした表情で首を傾げた。
そういえば、出発の時も晴明の姿はなかった。
あの時はまだ出仕前だったのだから、見送りに来てもよかったはずなのだが……。
「お前達は晴明様に何もしてもらってないのか?」
「そんなはずないでしょう」
不思議そうに聞いた守道に吉昌が一瞬の間すら置かず、まるで切り捨てるかのように答えた。
その吉昌の表情はどこか拗ねたような、羨むような色々と複雑に絡み合った雰囲気が漂っている。
それがさらに不思議で、守道は目を頻りにまばたいた。
「息子のためにと、あれこれ必死に考えてくれる優しい父は光栄様だけですよ」
「こっちの父上では、絶対にあり得ないよね」
ここまではっきりと断言されてしまう父親の心境はいかがなものだろうか。
もし光栄だったらなら言葉では示さないものの、非常に悲しげな表情で守道をじっとみつめてくるに違いない。
守道はそんな様子を想像して、思わず苦笑する。
確かに、光栄のように息子のことで一喜一憂している晴明の姿は想像出来ない。
どちらかというと、口も手も出さずとも遠くから静かに息子達を見守っている姿の方が想像が易い。
守道にしてみれば、それも十分親心にあふれているように思えるのだが、吉平や吉昌は違うのだろうか。
そんなことを一人で考える守道の顔を、吉平は期待を込めたキラキラと輝くような眼差しで覗き込んだ。
「ね、守道。 いつか会わせてよ、もう一体の光栄の式に」
会いたいとせがむ吉平の隣で、拗ねていたはずの吉昌も同じような表情をみせている。
似たような面立ちの上に同じ表情でみつめられ、守道はさらに苦笑を顔に浮かべた。
「いつか、ね。 俺、まだ自由に扱えなくてさ……自分では呼び出せないんだ」
自分で言っていて悔しいが、事実なのだから仕方ない。
徐々に落ち込むような声で説明する守道に、吉平はにっこりと柔らかな笑みでみつめている。
そして、落ち込む守道の手を握ったまま、元気よく再び前へ歩き出した。
「とりあえず今は、保憲様の言っていた集落跡にいってみようよ」
いつもと変わらない笑みで、吉平が守道と吉昌に言う。
そんな吉平をしばらくみつめたあと、守道は大きく頷いて一緒に歩き出した。




