異質な空間
しかし、その時だった。
霊木をくぐった瞬間に、ピリッとまるで静電気が起きた時のような痛みが全身を駆け抜けた。
「………っ!?」
守道は思わず目をぎゅっと瞑って息を詰める。
それとほぼ同時に、握られていた吉平の手に痛いほどの力が込められた。
守道はそろそろと目を開き、吉平に首を傾げてみせる。
「………吉平……?」
覗き込んだ顔には笑みはない。
代わりにあるのは、射殺せるのではと思えるほどの鋭い眼差し。
それは、あまりにも吉平には似つかわしくなくて、恐れでさっと血の気が引いていく。
そして、握られていた吉平の手を守道も強く握り返した。
「吉平?」
「守道、吉昌……。 前を、よく見てごらん。 そして、この空間に違和感はないかい?」
「え………?」
突然そう問われ、守道と吉昌は顔を見合わせながら首を傾げる。
そして、吉平に言われた通り、素直に前へ顔を向けた。
「な……んだよ、これ!?」
見た瞬間に、守道は思わず途切れ途切れに言葉を口から絞り出す。
守道達の目の前に今まであったはずの深い雪はなく、背丈の低い草や土が剥き出しだ。
そして何より、冬の凍てつくような肌を刺す寒さも風もない。
冬を越え、新しい芽吹きを迎える春の温かな空気に包まれ、空も厚い雪雲は消えて燦々と太陽が森を照らしていた。
ほぼ反射的に後ろを振り返ると、今さっき通ったはずの霊木と注連縄がない。
あたかも初めからここにはなかったかのように、完全に消え去っていた。
「何が起こったんですか!?」
吉昌が不意に悲鳴に近い声で叫んだ。
まるで、別空間に迷い込んだかのような景色。
守道達の思考はすでに限界を超えていて、役に立ちそうもない。
だから守道も吉平も、吉昌の叫びに答えることは出来なかった。
『守道、しっかりなさいな』
茫然と立ち尽くす守道に、今まで静かだった紅姫の声が届く。
その声は体内だけを響き渡るような不思議なもので、思わず目を大きく開いて驚いた。
『今からそんなことでとうするのよ』
「う、うん……」
紅姫の声に、守道は戸惑いながらも頷く。
そんな紅姫の声は、吉平や吉昌には届いていない。
一人で喋っているように見えている彼らは、守道を見て首を傾げた。
「あ、えっと……」
二人の訝るような眼差しに、守道は視線を逸らして忙しなく右往左往させる。
言ってもいいのだろうか。
紅姫は光栄の霊力そのものだ。
それをたとえ縁の深い安倍兄弟とはいえ、姿を晒すのは憚られる。
『わたしの存在を隠す必要はないわ、気にしないで話してあげて』
どうしようかと悩む守道に気づいている紅姫は、優しい声でそう告げた。




