忘れさられていた綺瀏
「誰かが意図的に植えたのか……?」
「うん。 ………でも、この霊気……どこかで……」
不意に呟いた吉平。
その呟きは妙に角張っていて、守道は思わず耳を疑ってしまう。
いつもは飄々と明るい、はた迷惑な声をしているのだが、今の呟きにはそれがなかった。
しかし、その内容はよく聞き取れていなかった守道は、首を傾げて吉平を見る。
「吉平、どうした?」
「ううん、何でないよ」
訝る守道に、吉平はいつもと変わらない笑みで答えた。
その向こう側で、吉昌も守道と同様に訝るような眼差しを向けている。
「そんなことよりも早く先に進もうよ、ね?」
無理矢理に話しを反らした吉平は守道と吉昌の手をとり、ずぼずぼと音をたてながら雪道を歩き出す。
そんな吉平に引っ張られている守道と吉昌は、足が縺れながらも必死についていく。
しかし、それを遮ったものがいた。
『ちょっとまて、守道。 我を忘れるな』
「…………あ、ごめん綺瀏」
言われてようやく、綺瀏の存在を忘れていたことを思い出した守道は、申し訳なさそうな声をあげる。
そして、雪に埋もれて自由のきかない足はそのままに、上半身だけを捻って後ろを振り返った。
「霊符に戻るんだよな?」
『あぁ。 ここから先は木々の間隔が狭い。 我の図体では通れぬのだ』
「うん、ちょっと待ってね……」
綺瀏の言葉を聞きながら、守道は懐に腕を突っ込む。
そして、取り出したのは真っ白な霊符だ。
それを指に挟み、綺瀏に高々と掲げた。
「どうぞ、綺瀏」
差し出された霊符を確認し、綺瀏は守道がまたたき一つする間に戻ってしまった。
「霊符にまじないが戻りましたね」
「……あ、本当だ」
吉昌の言葉に霊符を確認した守道は、驚きで声をあげる。
すごい。
本当に、主である光栄の干渉なしにまじないがきれいに戻ってしまった。
「よし、今度こそ行くよ!」
「うわっ、ちょっと待てって……っ!」
まじまじと霊符を感動の眼差しでみつめていた守道を、吉平が容赦なく引っ張った。
突然のことで体勢を崩した守道は、慌てて吉平の腕にしがみつく。
「ほら、吉昌も!」
「え、ちょっと……引っ張らないで下さい、兄上!!」
吉平は叫ぶ守道と吉昌を引っ張ったまま、霊木に掛けられた注連縄の下をくぐった。




