霊木
「大丈夫大丈夫。 ね、吉昌?」
にっこりと微笑んで、吉平は吉昌を振り返る。
すると、視線の重なった吉昌はしばらくそれをみつめたあと、こくりと大きく頷いた。
そんな会話をよそに、守道達を背中に乗せた綺瀏が走る足をゆっくりと止めた。
「綺瀏、どうしたんだ……?」
何事だろうかと首を傾げて聞いた守道に、綺瀏は首を捻りながら顔を向けた。
『ここからは歩きだ』
鳥の鳴き声も風で葉が擦れあう音も聞こえない、深い森の真っ只中。
綺瀏が静かな声でそう告げた。
それに少しの間動きを止めていた守道は、やがてゆっくりと吉平達に顔を向けた。
すると、吉平達は守道に向かって大きく頷く。
「降りようか」
そう言って、はじめに綺瀏の背中からふかふかの首を伝いながら降りたのは吉平だ。
それに、守道と吉昌が続く。
ようやく地面に足をつけると、思っていた以上に深い雪に、太もも辺りまですっぽりと埋まってしまう。
守道は真っ白な雪をみつめ、眉間にしわを寄せた。
「冷たい……、寒い……っ」
守道は腕を頻りに擦りながら、ぶるぶると小刻みに震える。
そんな隣にいる吉平と吉昌も、同様だ。
埋まっている足から雪の冷たさで徐々に体温を奪われていくのがはっきりとわかる。
早くどうにかしないと、凍えてしまう。
そう思いながら、守道はふと顔を正面に向けた。
そして、目に飛び込んできたのは、二本の幹の太い樹木。
その樹木を跨ぐように巨大な注連縄が掛けられていた。
「この樹木は……霊木かな?」
それをぼんやりとみつめていた守道の隣で、吉平が呟いた。
「霊木……?」
守道は首を傾げながら吉平に聞き返す。
すると、吉平は守道に大きく頷いてみせた。
「よく神経を研ぎ澄ませてみてごらん。 そうしたら、すぐわかるから」
そう言われ、守道は素直に深呼吸をしてそっと目を閉じた。
しっかりと足で踏みしめている雪に埋まっている地面。
そこから、緩やかに何かが守道の足を伝って体内に音もなく、ただ静かに吸い込まれていく。
それは当然であるかの如く、霊力に混じって体内をめぐっていく。
不思議と、悪い気配はしない。
それどころか、とても清らかで温かい。
これは、場の浄化を促す清浄な霊気。
その霊気を辿り、その先にあるのは吉平の言う通り、二本の樹木だ。
守道は閉じていた目を開き、霊木を見上げた。




