お先真っ暗
「雪………だからこんなにも寒いわけだ……」
「吉野は、雪積もっているよね」
守道の隣で吉平はそう小さな声で呟いて、舞い降りてくる雪に手を伸ばした。
今は、冬。
これから向かう吉野の山奥は誰もいない静かな場所だ。
きっと、降り積もった雪には手をつけられていないはず。
そして、山奥というからには、都の比ではないくらいに深く雪が降り積もっていることだろう。
しかし、そこでふと守道の中で疑問が生じた。
「なぁ………今からいく吉野は誰もいないんだよな……?」
「えぇ、そうですよ」
守道の呟いた言葉に肯定を示したのは吉昌だ。
しかし、そんな吉昌を振り返ることもせず、守道は空を見上げたままさらに口を開いた。
「こんな冬空の下、俺達どこに身を寄せろと……?」
「「……………」」
守道の言葉に、吉平と吉昌も言葉が続かない。
まったく、守道の言う通りなのだ。
調査は、一朝一夕には終わらない。
何度も何度も調査を重ね、その上で結果を導き出すのだ。
ともすれば、必然的に寝泊まりする場所が必要になる。
しかし、今から行く場所は誰もいない。
しかも、寂れた集落跡地とまで保憲が言っていたのだ。
そんな場所に、守道達が身を寄せられるような小屋などがあるのだろうか。
いや、これは言うまでもなく、絶対にないに違いない。
あったとしても雪や風などしのげそうもないほど、ボロボロに傷んでいるだろう。
そんな風景を想像して、守道は思わず唸り声をあげて頭を抱えた。
その隣の安倍兄弟も、呆然と座り尽くしている。
今の心情を一言で言うならば、「お先真っ暗」が一番相応しいだろう。
守道は頭を抱えたまま、ふにゃりとみっともなく半泣きの顔を見せた。
「どうするんだよー……」
呟いた声は、今にも折れてしまいそうなほどか細く、少しだけ涙声だ。
「大丈夫、まぁ……なんとかなるでしょ」
本気でへこんでいる守道の背中を元気づけるように叩きながら、吉平はそんなことを呆気なく口にした。
そして、顔を俯けている守道の顔を下から覗き込む。
「行ってみないと何とも言えないし……。 たとえボロ小屋しかなくても、過ごせる程度に手を加えればいいんだから」
なんとも吉平らしい前向きな慰めの言葉だ。
守道も、元々はこんなことでへこむようなひ弱な神経はしていない。
だが、知らぬ土地、誰も住み暮らしていない集落に放り込まれる子供の心境は穏やかではない。
守道は賀茂の血筋とはいえ、まだ十四歳の子供なのだ。
不安になっても仕方がない。




