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賀茂陰陽伝  作者: 東雲しはる
54/85

一流陰陽師達の式事情


―――――

――――――――――



「光栄様の式、初めて見たよ!」


風景など見る余裕もないほどの速さで地を駆ける綺瀏の背中。

そこで、容赦なく吹きつけてくる凍えるような冬の風をものともせず、歓喜で弾む声をあげたのは吉平だった。

その表情はいつもは見せないほどあどけなく、頬は興奮でほっこりと赤く染まっている。

その様子を隣で見ていた守道は目を頻りにまたたいていた。


「う、うん。 俺も、今日会ったばかりで……少しだけ戸惑ってるというか……」


勿論守道からしても、新たな父の力の一端を見た衝撃は凄まじい。

そして同時に、改めて知ってしまったずぼらさにもかなりの衝撃を受けたのだ。

しかし、それ以上に守道の声が聞こえないほど興奮しきっている吉平の様子に戸惑ってしまう。

あの安倍晴明の息子ならば式の一体や二体、べつに目新しいものでもないだろうに。

邸の中で平然と式がうろついている風景が易く頭に思い描けてしまう。

それなのに、何故そんなにも感激する必要があるのだろうか。

守道はおかしいな、と首を傾げながら吉平の隣にいる吉昌をちらりとみやる。


「……あのー……吉昌……?」


守道は普段は絶対に見ないだろう光景に、思わず口が勝手に吉昌の名前を呼んだ。

しかし、吉昌はキラキラと目を輝かせ、頻りに綺瀏の背中を撫でていて、守道の声など聞こえていない。

そんな吉昌の撫でている部分だけ毛がゴワゴワと絡まり、目もあてられない状態になってしまっていた。

吉昌はどうやら、言葉には出さないが、代わりに行動に感激という感情が現れてしまうらしい。

それに対し、守道は思わず苦笑してしまう。

やはり兄弟だなぁ、と思わずにはいられない。

歓喜の現れ方に差はあれど、やはり似通ったものがある。


「晴明様は式はいないのか?」


あの大陰陽師の晴明に式がないなんて、あり得ない。

だが、吉平と吉昌の様子を見ていたら聞かずにはいられない。

苦笑を見せている守道に、吉平が紅潮した頬はそのままで顔を上げた。


「いるにはいるよ。 でも、式には頼りたくないから絶対に使わないって言っていてね」


あぁ、必然的に見る機会が失われていたのか。

なんというか、実に大陰陽師らしいことこの上ない。

やはり、晴明ほどの陰陽師ならば式に頼るよりも自ら行動した方がいいのだろう。


「紙を式に変えて都に放つことはありますが、綺瀏のように自らの意思で行動し、会話する式は見たことありません」


吉昌は綺瀏の背中を撫でたまま、明るさの混じる声でそう答えた。

そうだったのか。

賀茂と安倍は深い縁があるとはいえ、あまり晴明については知らなかった守道だ。

知った事実に驚きは隠せない。

守道も吉平同様に頬を紅潮させ、拳を強く握った。

しかし、その時だった。

ふわりふわりと、空から白い綿のようなものが舞い降りている。

それを手に取ると、ひんやりと冷たく、肌に触れた瞬間にすぅっと溶けて消えてしまう。

これは、雪だ。

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