いざ、吉野へ
「よくできた式だろ?」
「……うん……すごいよ、本当に」
こんなずぼら陰陽師に使役されても文句一つ言わない綺瀏がすごい。
しかし、それは言葉に出来ず、守道は静かに飲み込んだ。
光栄の陰陽師としての信頼を失わないために。
言いたいことをこらえるように、きゅっと口を強く横に結んだ時だった。
『守道、安倍の兄弟……。 そろそろいいか?』
不意に頭の上から綺瀏の声が降り注ぐ。
そして、綺瀏はゆっくりと膝を折り、巨大な顔を息がかかりそうなほど守道の目の前に近づけられた。
『背中に乗れ。 早くしないと、日が暮れる』
「う、うん」
もしかして、頭を踏み台にして背中まで登れと言っているのだろうか。
その考えはどうやら正しかったようで、綺瀏は目で早くしろと訴えてくる。
なんだか顔を踏み台にするのは気が引けてしまうが、ここ以外に背中へ登る方法はないから仕方ない。
守道はしばらく綺瀏をみつめ、やがて決心したようにゆっくりと鼻先に足をかけてよじ登る。
その際に手と肌に触れた綺瀏のふかふかとした毛並みがとても心地いい。
それを堪能していると、吉平と吉昌もようやく背中まで登ってきた。
「じゃあ、道中気をつけてな!」
「うん、いってきます!」
三人が登ったのを確認して、光栄が行義と一緒に下から大きく手を振ってくれている。
そんな光栄に、守道達も大きく手を振って返した。
『……では、行くぞ。 しっかり掴まっていろ』
綺瀏はそう告げ、少し後ろへ下がる。
そして、軽い助走をつけて勢いよく空へと飛び上がった。
同時に、ぶわりと周囲にあるものを全て巻き上げるような風が起こる。
飛ばされないように必死に光栄にしがみついていた行義は、どんどん小さくなっていく綺瀏を見上げて小さく息をついた。
「あーぁ、行っちゃった……」
すごく残念そうな行義の声。
その声を聞いていた光栄は、くすりと淡い笑みを浮かべて行義の頭を撫で回す。
そして、ひょいっと軽々と小さな体を抱えあげた。
まるで幼子を抱きあげるかのように。
「大丈夫、すぐ帰ってくるさ。 それよりも、朝餉を食べに行こうか」
「うん」
光栄の問いに、行義はこっくりと素直に大きく頷いた。
その仕草が甘えん坊な行義らしさを際立たせていて、なんとも愛らしい。
光栄は淡い笑みを浮かべ、行義を抱えたまま邸の中へと戻って行った。




