狩衣姿の安倍兄弟
「えっと……気をつけてね」
そう呟き、ぎゅっと強く守道の手を握りしめた。
それはまるで甘えるかのようで、守道は柔らかく目を細めながら握りしめられた手をみつめる。
そして、ぎゅっと守道も握り返し、行義の目線を合わせるように膝を曲げて顔を覗き込んだ。
「すぐに帰ってくるから、大丈夫。 皆に迷惑なんてかけないと思うけど……大人しく言うこと聞くんだぞ」
「……うん。 ちょっと寂しいけど、大丈夫だよ」
そう告げた行義が、しょんぼりと落ち込んだような表情で首を傾げた。
そして、そのまま守道をじっと少し潤んだ瞳でみつめている。
あぁ、だめだ。
捨てられた子犬のような、思わずかまってやりたくなる弟の姿。
純粋に守道がいなくなるのを寂しく思ってくれる行義が、本当に可愛くて仕方ない。
その様子をみていていたたまれず、守道は懐に手を突っ込んだ。
そして、そこから取り出したのは、濃い青の玉が連なった数珠。
それは、守道が普段から持ち歩いているものだ。
「これ、行義に貸しておくよ」
守道は持ってて、と行義の首からそれをかける。
それを行義は驚いたように目を丸くして、首からかけてくれた数珠をみつめた。
「これ、兄様の……っ! いいの!?」
「うん。 俺は父さんが貸してくれたのがあるから」
守道は柔らかな眼差しで行義をみつめたまま、そっと頭を撫で回す。
そして、少し名残惜しそうにその手を離し、部屋の入り口へと歩き出した。
早く行かないと、皆を待たせてしまう。
急がなければ。
そう考えた時、ぱたぱたと足音をたてて行義が後ろを追いかけてくる。
「僕も、お見送り行く」
「ありがとう、行義」
守道は行義の頭を再び撫で、一緒に簀子に並んで歩く。
そして、辿り着いた玄関で沓を履き、庭へ出た。
「おはよう、守道。 やっと来たね」
少し笑いを含む少年の声。
まばゆい光に照らされた先にいたのは、赤の単に白の狩衣。
長い藍の髪を結わずに風で靡かせている、幼なじみの吉平だ。
「おはよう、吉平。 それに、吉昌も」
「おはようございます、守道、行義」
吉平にいた、青の単に白の狩衣。
こちらは後ろ首で長い藍の髪を一つに束ねた吉昌だ。
吉昌はゆっくりと守道と行義に歩み寄る。
そして、守道に寄り添うように傍にいる行義の頭を撫でた。
「おはよう。 吉平兄様も吉昌兄様も、気をつけていってらっしゃい」
「ありがとう、行義」
いつの間にか傍にいる吉平もそう優しげな声で言いながら、行義の頭を撫でた。
行義は二人から頭が揺れるほど撫で回され、わっ、と小さく声をあげた。




