急いで支度
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「……光栄様、守道、安倍の方々がおみえですよ?」
突然聞こえてきたのは、少しだけ遠慮がちな菖蒲の声。
はっとして聞こえた方を振り返ると、やはり菖蒲が遠慮がちに部屋の入り口から顔だけを覗かせていた。
「あぁ、もうそんな時刻か……」
菖蒲の背後から少し溢れている朝の優しい日差しを見ながら、光栄が小さくそう呟いた。
どうやら、かなり長話をしていたらしい。
光栄はガリガリと後ろ頭を乱暴に掻きむしりながら守道に目配せをする。
そして、そのままゆっくりと口を開いた。
「早く着替えてこい。 その後にすぐさま玄関にくるんだぞ?」
「うん」
守道は優しい口調で伝えてくる光栄に大きく頷いた。
そして、慌てて立ち上がり、床に散らばってる荷物を踏まないように気をつけながら部屋を出た。
「おはよう、守道」
「おはよう、母さん」
にっこりと優しい笑みを浮かべる菖蒲に、守道も同じように返した。
「守道、昨日言っていた狩衣が縫い上がりましたよ」
菖蒲はそう言いながら、腕に抱えた優しい色合いの狩衣を守道に差し出した。
守道はゆっくりとそれに手を伸ばし、再び菖蒲を見上げた。
「ありがとう、母さん!」
「ふふ……いいのですよ、可愛い息子のためですもの。 さあ、早く部屋に戻って着替えてきて下さいな」
息子のお礼にほのかに嬉しそうな表情で守道の背中を押した。
何から何まで、結局は家族が全てやってくれた。
申し訳ないと思いつつも、やはり嬉しい。
大切にされているのだと感じる瞬間だから、さらに嬉しいのだ。
守道は再びありがとう、と菖蒲にお礼を告げた後、新しい狩衣を抱えて部屋へと走り出した。
そして、慌てて部屋へ入ると、ここを出る前にはまだ眠っていた行義がすでに起きていて、狩衣に着替えた姿で座っていた。
「おはよう、行義」
「おはよう、守道兄様」
守道はにっこりと微笑み、忙しく着替えながら行義と挨拶をかわす。
そして、その姿を行義はじっと目に焼き付けるかのように真剣な眼差しでみつめていた。
「………よし!」
行義の目の前で着替え終えた守道は着物の乱れを直しながら小さくそう呟く。
そんな兄に行義は恐る恐る立ち上がり、傍によりながら首を傾げた。
「ねぇ、兄様」
「どうした、行義?」
首を傾げている行義に、守道も同じ仕草で返した。




