式は主に似る
「まずは……こいつは俺の式の紅姫」
「父さんの式……?」
首を傾げて聞き返す守道に、光栄は笑みを浮かべたまま大きく頷いた。
陰陽師なのだから、いて当然の存在だ。
そうか、あの不思議な声はやはり紅姫だったのか。
しかし、守道の夢の中に入り込んで助けてくれたのは、光栄の差し金だろうか。
式は主の命により動くもの。
異変に気づいた光栄が式を送って助けてくれた可能性は高い。
そういえば、起き抜けにそれらしいことを言っていなかっただろうか。
大丈夫、味方だ、と。
「やっぱり、最終的に助けてくれたのは……父さんなの……?」
そうだとすると、さすが光栄だ。
しかし、そんな守道とは裏腹に光栄ははっきりと迷わず首を横に振った。
「いや、俺じゃなくて、あくまでも紅姫」
「……じゃあ、父さんの命令なしに動いた……?」
そんなことがあり得るのだろうか。
いや、あり得る。
何せ、人並み外れた奇抜な思考回路を持つ光栄だ。
陰陽師としての当たり前など、光栄には無意味。
自分には自分のやり方がある。
だから、あえて何も縛らない。
そして、たとえ命令なしに動いても、軽く笑い飛ばすだろう。
そこで結果が出れば何も言うことはない、上出来だ、と。
少々呆れた顔で考える守道のそれをなんとなく解したのだろう。
光栄の周りを浮遊していた紅姫が守道に近づく。
そして、下から守道を見上げた。
『まあ、あながち間違ってはないわ。 さすが光栄の息子ね、父の性情をよくわかってる』
「おい、何だかよくわからんが……ろくな会話でないことだけはわかるぞ」
頻りに頷く紅姫の向こう側で、光栄は目を半眼にしながら声をかける。
その声を聞いた紅姫は背後を振り返った。
『実によくできた息子だって言っただけよ、気にしないで』
「いや、どう考えてもそんな優しい内容じゃなかったぞ」
どうしても解せないと言い張る光栄の目の前で、紅姫も負けじと言い返す。
陰陽師と式の会話とは思えぬ自由なやり取りを聞きながら、守道は困ったように苦笑する。
何だか、賑やかな光栄が二人いるようだ。
式はやはり主の性情を受け継ぐ傾向にあるのか。
それはそれで、苦労しそうだ。
『……光栄』
「何だよ」
『早く話しを元に戻しなさい。 脱線し過ぎよ』
ふと我に返った紅姫がそう光栄に促した。
その紅姫の言葉に、光栄は忘れていたと言わんばかりに手と手を打ち鳴らせた。
「そうそう、ここからが重要なんだ。 いいか、守道……お前に俺の式・紅姫を預ける」
「………………えっ!?」
光栄の突然の言葉に、守道は思わず目を丸くして叫んだ。
大切な自分の式を貸し与えるというのか。
それはさすがに……。
「いやいやいや、大切な式を受け取れないって!」
「いいって、連れてけ。 どのみち、俺の式は紅姫だけじゃねぇからな」
「え………?」
潔く告げられた光栄の言葉。
それを聞いていた守道は思わず言葉を失い、そのまま硬直してしまった。




