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賀茂陰陽伝  作者: 東雲しはる
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全ては可愛い息子のために

「準備を忘れたお前のために、昨晩色々俺が準備をしてた」

「……えっ!?」


思ってもいなかった父の言葉に、守道は弾き返されたように勢いよく顔を上げた。

守道をみつめ返し、光栄は指を四本立ててみせた。


「とりあえず、四つある」

「四つも……?」


ありがたいやら、申し訳ないやらで複雑な心境の守道は、体を小さく丸める。

守道が呑気に眠っていた間に、光栄は息子のためにと色々準備してくれていた。

あぁ、あの時眠らずに起きていれば、光栄の手を煩わせる必要はなかったのに。

そう思い、守道はしょんぼりと首を前に傾げた。

落ち込む守道を目の前に、光栄は柔らかい笑みを浮かべながらそっと手を伸ばす。

そして、守道の頭を撫で回した。


「とりあえず、一つ目は……」


あえて深く聞くことも、慰めることもせず、光栄は話しを続ける。

これもきっと、光栄の優しさだ。

その優しさに感謝しながら、守道は光栄を恐る恐る見上げる。

光栄は脇に置いてある漆塗りの机に散乱していた白い紙切れの束を手に取り、それを守道に差し出した。

それは短冊型に切られた紙に、まじないが刻まれたもの。

陰陽師としてはもっとも身近である霊符だ。

しかし、その量が半端ではない。

これでもかというほど重ねられたその霊符の束は、ざっと見ただけでも軽く二十から三十枚を越えているだろう。

一体、こんなに何に使うというのだろうか。

守道は受け取った大量の霊符をしばらくみつめ、やがて光栄を再び見上げた。


「ありがたい……ありがたいけどさ、こんなに使わないよ、きっと」


今回の吉野行きは、ただの調査だと保憲が言っていた。

その言葉を信用するならば、霊符が大量に必要になる機会はないはずだ。

頭に疑問しか浮かばない守道に、光栄は胸の前で腕を組んで曲がっていた背筋をぴんと伸ばした。


「いついかなる時も、五十歩先……いや、百歩先を見据えて用意しておくのが一流陰陽師だぞ、守道」


確かに、その通りだ。

常に目先のことばかりではなく、その先を、さらに先をと未来を見据えて行動するのが一流陰陽師。

夜空の星々から吉凶を見定め、そこから式占をおこなって未来を予言する陰陽師には、初歩中の初歩。

それが出来なければ、いつまでたっても半人前のままだ。

反論の術を失った守道は悔しげに霊符に視線をもどし、口をへの字に曲げる。

そんな守道を他所に、今度はなにやら狩衣の襟元に手を突っ込んでごそごそと探っている。


「…………何してるの、父さん?」


光栄の不可解な行動に、守道は思わず眉間にしわを寄せて聞き返す。

すると、光栄はそんな守道の目の前でじゃらりと音をたてて長い紐のような物を取り出した。

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