ずほらさは、賀茂家随一
「いいんだよ、部屋に行けば羽織るものは山ほどあるんだから」
そう言ってにっこりと柔らかい笑みを浮かべ、守道の頭を再び撫で回した。
そんな光栄を下から見上げ、守道は小さな声でありがとうと伝える。
小さなお礼の言葉が耳にとどいたのだろう。
光栄は嬉しそうに優しく目を細めた。
「ほら、完全に朝になる前に部屋にこい。 早くしないと、出発に間に合わないぞ」
「あ……、うん!」
一言そう忠告して仕事部屋に足を運ぶ光栄の背中を、守道は慌てて追いかける。
光栄の仕事部屋は、両親の部屋の隣にある。
そこは仕事をするだけの部屋であるため、かなり手狭だ。
そして、沢山の書や巻物、机や式占に用いる占具の一つである六壬式盤が入り乱れているため、さらに狭くなってしまっている。
いかにも陰陽師らしい部屋ではある。
しかし、部屋の惨状だけを見て考えると、光栄の普段の私生活やずほらさが丸わかりだ。
そんな部屋の前に辿り着いた光栄はゆっくりと立ち止まり、守道を振り返る。
「座れる場所が少ないけど……床に散乱してる荷物を適当に蹴散らして座れ」
「あぁ……うん……」
部屋に通されたのはいいものの、守道は中をみた瞬間に絶句してしまった。
中は荷物で溢れ過ぎて、もはや床板すら目視出来ない。
唯一無事なのは、部屋の中心に置かれた畳一畳分のみ。
しかし、それには持ち主本人しか乗らない物だ。
たとえ息子といえど、それに乗ることは出来ない。
そんな状態で、どの荷物をどう動かして座れというのだ。
守道は口をひくつかせ、目を呆れたように半眼で部屋をみつめる。
片付けようという気は、光栄にないのだろうか。
いや、もし欠片でもあったなら、こんな惨状にはなっていないはずだ。
「どうした、守道……? 早く入ってこい」
「いやいやいや、どこをどう通って、どこに座れと?」
聞き返す守道を他所に、光栄は慣れた足取りでひょいひょいと部屋の中に入り、畳の上に座ってしまった。
さすが、この部屋の持ち主。
足取りに危うさもなく、難なく部屋を渡ってしまった。
守道は呆れを通り越し、感嘆さえ覚える。
さすが、賀茂家一のずぼら人間。
他の誰にも真似出来ないだろう。
「部屋に入っても、座るところないじゃんか。 一体どこに座るんだよ、父さん……」
守道は頭を抱えながら、そう光栄に訴える。
光栄はぐるりと一周部屋を見渡した。
そして、本人も床に座らせるのは無理だと判断したようだ。
その代わり、さも当然のようにまだ人一人分の余裕がある畳半分を手で叩いて見せた。
とうやら、光栄はそこに座れと言っているようだ。




