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賀茂陰陽伝  作者: 東雲しはる
36/85

夢うつつ


―――――

――――――――――


重く深い、肌に吸いつくような漆黒の闇。

しん…と静まり返るその中で、守道は閉ざしていた瞳をそっと開いた。


「ここは……?」


周囲を緩慢に見渡しても自分の手すら目視出来ないほど、濃厚な闇につつまれている。

守道は思わず目に見えない不安に、身震いをした。


『……見つけた……』


突然背後から聞こえてきたのは、ぼそりと呟く男の声。

その声に、ざわりと全身に鳥肌がたった。

恐ろしい。

本能が告げている。

あれに関わるな、逃げろと。

しかし、まるで縫いとめられているかのように体はおろか、指先すら動かせない。


『おかしいなぁ……いつも頑丈な檻の中にいたのに……』


おかしいと疑問を口にしているはず。

それなのに、全くそれらしさが声音に含まれていない。

逆に、どこか楽しんでいる、歓喜しているとさえ感じてしまう。


『……そうか、賀茂光栄が揺らいでいるのか……』


一際楽しそうな男の声が闇に響き渡る。

ドクン…と胸が跳ねた。

同時に、気持ちの悪い冷や汗が全身から噴き出してくる。

何故、ここでその名が出てくるのだ。

不意に頭をよぎった疑問を解したのだろう、男の笑い声が上がる。


『なんだ、知らないんだなぁ……賀茂守道』

「…………っ!」


不意に名を呼ばれ、思わず息を詰めた。

いや、違う。

強制的に、何かに首を絞められたのだ。


「……っ」


守道はなんとか逃れようと必死に喉元を掻きむしる。

しかし、そこには何もない。

あるのは、守道自身の白くなめらかな皮膚だけだ。

苦しい。

このままだと、まずい。

逃げろと、頭がうるさいくらいに危険を告げている。

しかし、体は言うことを聞いてくれない。


『まずは、お前からだ………賀茂守道』


いつの間にか縫いとめられていたはずの体が動いていることすら、守道は気づけていない。

気づける余裕がないのだ。


「………っ」


不意に、喉元を掻きむしっていた守道の腕が落ちた。

空気が足りない。

そのためか、全身の力が抜け、意識が薄らぐ。


助けて……。


薄らぐ意識の中、無意識にそれを求めた。

そうしないと、こんなわけのわからないところで命を捨てることになる。

それだけは、いやだ。

誰でもいい、気づいてほしい。

守道は強くそう願う。

しかし、ついに耐えかね、糸が切れたかのように膝から崩れ落ちた。

その時だった。


ピチャン……。


かろうじてまだ働いている耳が、僅かな水音をとらえた。


ピチャン……。


それは、ゆっくりと近づいてくる。

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