光栄は親バカ
しかし、それがじつに気に食わない。
光栄は口をへの字に曲げ、ぷいっと拗ねたようにそっぽ向いた。
「自分の息子の部屋に行ったらダメなのかよ?」
「そうは言っておらんよ」
子供のような態度の光栄に、保憲は苦笑を浮かべた。
こういった姿も、光栄らしさだから仕方ない。
大人としてどうなのかという懸念もあるが、これはこれで味があるのだ。
「足止めして悪かったね、早く守道の所へ行ってやりなさい」
「……あ、あぁ…」
保憲はにこりと微笑み、光栄の背中を軽く叩く。
そして、そのまま光栄に背中を向け、ゆっくりとした足取りで簀子を渡り始めた。
その保憲の背中をぼんやりとみつめ、しばらく立ち尽くしていた。
えらく、聞き分けがよかった気がする。
いつもなら、
「そんな子供みたいな真似をするでないよ」
「それでは子供達の悪い見本になるぞ」
と呆れ混じりの表情と声で説教してくるのに……。
なんにせよ、説教はないならない方がいい。
光栄はまたたく星を見上げ、浅く息をついた。
しばらくそうしたのち、再び守道の部屋に向かって歩き出す。
そして、すうすうと安らかな寝息が二人分聞こえている守道の部屋に顔を覗かせた。
部屋には灯りはなく、真っ暗だ。
しかし、光栄は陰陽師。
暗闇でも視界がはれる暗視の術を使うことなど造作もない。
部屋の中心にある几帳まで辿り着いた光栄は、そっと向こう側にある茵に足を踏み入れた。
すると、そこには仲良く並んで眠る守道と行義がいる。
光栄は二人の近くまで歩み寄り、そっと腰を下ろした。
「起こそうと、思ったんだけどなぁ……」
ちゃんと起こして、しっかり明日の準備をさせるつもりだった。
しかし、あどけない寝顔を見たら、せっかく眠っているのにと可哀想に思えてしまう。
もしかしたら、菖蒲が楽しそうに笑っていたのはこれを見たからかもしれない。
それならば、光栄も納得だ。
光栄は守道と行義に手を伸ばし、柔らかな頬にそっと触れた。
温かい。
幾度となく触れてきた息子のその頬のぬくもりは、どれほど年を重ねても変わらない。
いつでもしつこく構ってやりたくなるほど可愛くて仕方ない、大切な息子達だ。
光栄はふっと強張っていた表情を緩め、柔らかな笑みを浮かべた。
今は起こさずにいよう。
明日早めに起こしてやればいい。
必要な物はある程度、自分が準備してやろう。
「……あー…ここまですると、晴明がまた呆れるなぁ…」
常に放置主義な晴明は、過度に息子に構う光栄に少々呆れているのだ。
晴明の中で、光栄は親バカの部類に分けられている。
しかし、それでいい。
可愛いものは可愛いのだから仕方ないのだ。
「明日から、しばらく離れるんだよな……」
光栄は寂しげな表情と声でそっと呟いた。
そして、あどけなく眠る息子の姿を目に焼きつけるように、しばらくじっと傍らで眺めていた。




