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賀茂陰陽伝  作者: 東雲しはる
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夫婦円満

「……で、守道と行義はどうした? えらく静かだが……」

「守道と行義ですか?」


光栄の言葉に、菖蒲の表情が一瞬にして花が綻ぶような優しい笑みに変わる。

その様子に、光栄はさらに深く首を傾げた。


「守道と行義は仲良く吉野の旅支度をしていたのですよ」

「うん、それで?」


くすくすと声をたてて笑う菖蒲に、光栄は説明の続きを要求する。

それでもなお、笑みを浮かべたままの柔らかな唇を袂で隠しながら、菖蒲は光栄を下から見上げた。


「守道は明日の準備もそこそこに、いつの間にか昼寝をしているみたいですよ、行義と一緒に」

「……守道…」


楽しそうな菖蒲とは裏腹に、光栄は口端をひくつかせ、呆れたような表情で呟いた。

せっかく保憲が準備のためにと急遽休みにしてくれたのに……。


「何してるんだ、あいつは」

「ふふ……いいではありませんか、光栄様」


実に子供らしい、と笑っている菖蒲。

そんな菖蒲を見ながら、光栄はふう…と浅く息をついた。


「それに、守道と行義は私の手伝いもしてくれたのですよ」

「それは偉い、さすが親孝行な優しい息子達だ。 しかしな、菖蒲……それとこれとは別なんだよ」


光栄は再び息をつき、額に手をあてた。

明日までに、準備しておかなくてはならないものがある。

それはこれから先、未熟な己を守る糧となる大切なもの。

どうやら、守道はそれを理解しきれていなかったようだ。


「………だから、俺は反対だと言ったんだ…」

「光栄様……?」


ぼそりと吐き捨てるように呟いた光栄を、菖蒲は不安げに見上げた。

そんな菖蒲の声に光栄ははっと我に返り、安心させるような柔らかい笑みを浮かべた。


「何でもない。 ちょっと、守道を起こしてくる」

「え、えぇ……」


光栄は戸惑う菖蒲の頭を優しく撫で回す。

そして、菖蒲を置いて部屋から簀子へと出た。

外へ出ると、すでに日は落ちており、気温も思わず身震いするほど冷え込んでいる。

光栄は暗闇で包まれた簀子を渡り、守道の部屋へ向かう。

その途中、ばったりと人影と遭遇した。

暗闇でよく見えないが、気配と霊力ですぐにわかる。


「今帰ったのか、親父?」


首を傾げて人影に声をかけると、季節外れの螢火のような小さな霊力で生まれた灯りが、ふわりと一つ舞い上がる。

それにより照らし出されたのは光栄の見立て通り、保憲の姿だった。


「あぁ、中々仕事が終わらなくてなぁ……。 お前は守道の所へいく途中か?」


保憲は淡い笑みを浮かべながら小さく首を傾げてみせた。

光栄はその言葉を聞いた瞬間に、嫌そうな様子で眉間にしわを刻んだ。

行動、思考共に全て見破られている。

さすが、現在の賀茂家当主だ。

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