仲良くお手伝い
「あら、守道? 今日は帰りが早かったのですね」
聞こえてきたのは、思わず聞き惚れてしまいそうなほど優しく澄んだ鈴のような声。
聞き慣れたその声に顔を上げると、色鮮やかな着物を山のように腕に抱えて簀子を渡る母、菖蒲の姿があった。
菖蒲はゆっくりと優雅な足取りで、仲睦まじい兄弟に歩み寄る。
そして、優しく温かい笑みで守道に首を傾げて見せた。
「おかえりなさい」
「ただいま、母さん。 明日の準備のために、講義は受けなくてもいいって言われたから帰ってきたんだ」
守道は菖蒲の腕に抱かれている大量の着物に手を伸ばしながら、本日二度目の説明をする。
そして、受け取った着物はほのかに温かく、ふわりと太陽の優しい香りがする。
多分、干したてだろう。
その香りに顔をふにゃりと幼子のような柔らかい笑みにゆるませ、再び菖蒲を下から見上げた。
「これ、どこに運ぶの?」
「あら……帰ってきたばかりなのに、お手伝いしてくれるのですか?」
守道の言葉に、菖蒲は嬉しそうに顔を笑みにほころばせる。
そんな菖蒲に、守道は大きく頷いた。
「せっかく早く帰ってきたし、いつもやらないから……今日くらい手伝うよ」
「あ、じゃあ、僕も! 僕もお手伝いするよ!」
兄がするなら自分も、と行義が元気よく飛び跳ねる。
子供らしいその行動に菖蒲は満面の笑みを浮かべ、優しく頭を撫でる。
そして、守道の頭にも手を伸ばし、行義と同様に頭を撫でた。
子供扱いに等しいその仕草は、不思議と心地いい。
柔らかく温かい母の手は、どんなに歳を重ねても変わらない。
優しい母の温もりに触れられる瞬間だから、たとえ子供扱いであっても嬉しいのだ。
「ありがとう、行義、守道」
菖蒲のその言葉に、守道と行義は顔を見合わせて笑う。
そして、同時に菖蒲を見上げた。
「私の部屋にいらっしゃい。 そこで、その着物を畳みましょうか」
柔らかな声に誘われ、守道と行義はゆっくりと歩き出した菖蒲の背中を追う。
守道の自室を通り過ぎ、少し離れた場所に両親の普段使っている部屋がある。
そこは守道や行義の自室よりも広々としていて、部屋に配置されている屏風や几帳、机などはゆったりと空間を取ってある。
それは、いつも朝から夜まで忙しい光栄が少しでもゆっくりと寛げるようにという菖蒲の配慮だ。
その配慮通り、光栄はいつも菖蒲と一緒にこの部屋で少ない自由時間をゆっくりと過ごしているのだ。
菖蒲はその部屋へ先に入り、部屋の片隅に置かれていた円座を三枚握り、それを床に並べる。
「さあ、いらっしゃい」
菖蒲は部屋の入り口で大人しく待っている守道と行義に手招きをして、入るように促した。




