各部署の博士達 ―弐―
「お前も知っているだろう、光国」
ゆっくりと涼やかで冷たいとさえ思える瞳を閉じ、晴明は光国にそう問う。
その問いに、何をというさらに質問を返すような言葉は光国から出てこない。
光国は顎に手をあて、思考をめぐらせるように軽く顔を俯ける。
それと同時に、声や息づかい、布擦れなどの音という音は全て消え、しんと耳が痛いほどの静けさが部屋を覆った。
思わず逃げたしたくなるくらいの静けさの中、どれほどそうしていただろうか、光国はやがて緩慢に顔を上げた。
「……もしかしなくても、守道達の吉野行きの件ですか……?」
光国の答えを聞いた晴明は迷わず素直に、小さく頷いた。
それを見ていた光国は、兄の光栄と同じように額に手をあて、深く息をつく。
あぁ、やはり……。
そんな光国の心の声が今にも聞こえてきそうな表情だ。
「……通りで、兄さんの機嫌が悪いわけですね……」
少し呆れの混じる声と表情で、光国は呟いた。
光栄は普段、ずぼらでだらしない。
しかし、それを越えるくらい家族を大切にする愛情深い男なのだ。
その家族が危機に晒されている今、彼は心穏やかではいられないだろう。
それを刺々しく、息が詰まるような場の空気が示していた。
「実は、私も陰陽寮に出仕してすぐ、父さんに聞いてみたんですよ」
「お前もか?」
ため息混じりに言った光国に、今まで恐ろしいほど沈黙していた光栄がすかさず反応した。
そんな光栄に頷き返し、浅く息をつきながら目を閉じる。
少し疲れの混じる光国の様子に、光栄と晴明は思わず顔を見合わせた。
「光国、どうした……?」
光栄は思わず眉間にしわを寄せ、光国に首を傾げてみせる。
光栄の目の前にいる晴明は、静かに光国の答えを待っていた。
「兄さんや晴明殿の様子からすると、まともな会話が出来たみたいですね」
「は?」
光国の考えてもいなかった言葉に、光栄は眉間に寄せたしわをさらに深くして短く一言で聞き返す。
まともな会話とは一体どういう意味なのだ。
全く意味を解せない光栄と晴明は再び顔を見合わせ、同時に首を傾げてみせた。




