各部署の博士達 ―壱―
この吉野行きの件は、遅かれ早かれ守道達が行ってしまう前までに、保憲に抗議しなくてはと昨日から思っていた。
もはや、後悔するしないの問題ではない。
どういう結果になろうとも、話さなければならなかったのだ。
本当なら陰陽寮ではなく、昨夜家族が寝静まった頃合いをみて保憲と話すつもりだった。
しかし、昨日は守道と行義が仲良く夜遅くまで起きて勉強をしていたようで、なかなか話す機会を持てない。
まだかまだかと子供達が眠るのを待っていたのだが、その間にどうしたものか、保憲が先に就寝してしまったのだ。
まさか、眠ってしまった保憲を無理に叩き起こすわけにもいかない。
しばらく迷ったのち、結局話すのは諦め、今日に持ち越した。
しかし、話題はどうあれ、話す場所選びは確実に失敗したらしい。
「くそ………っ。 親父は一体何を考えてるんだ……」
光栄は心の中で渦巻く不安や疑問、怒りを言葉に乗せて、口から吐き捨てる。
保憲の息子を三十五年間やってきたが、ここまで疑問が膨らんだのは初めてだ。
光栄は額に手をあて、肺が空になるほど息を吐き出す。
そんな光栄を目の前で見ていた晴明がすっと目を細め、ゆっくりと口を開いた。
その晴明とほぼ同時に、
「兄さん……晴明殿……?」
と、静かで落ち着きのある若い男の声が二人の名前を呼ぶ。
部屋の入り口に視線を送ると、そこには頻りに目をしばたたき、きょとんとした様子で立っている光国がいた。
「何故このような場所に……」
いるのですか、という光国の問いかけの言葉が不意に途切れた。
そして、きょとんとしていた表情はしだいに剣呑を帯び、眉間には深いしわを寄せる。
しばらく光栄と晴明を交互に眺め、自分の周囲に誰もいないことを確認するようにぐるりと注意深く見渡した。
そして、開いていた入り口を静かに閉ざし、部屋の中心に座っている光栄たちにゆっくりと歩み寄る。
「何かあったんですか?」
円座を引っ張りだして床に敷き、その上に座りながら光国は訝るようにそう尋ねた。
どうやら、この部屋と光栄や晴明が纏っていた異様な空気に逸早く反応したらしい。
きっと、安賀の陰陽師以外に漏れてはならない重大な何かがある。
そう直感で感じたからこそ、周囲に人の気配がないことを確認して、開きっぱなしだった入り口を閉ざしたのだ。
何もなければ、人の聞かれないように部屋を閉ざすことなど絶対にしない。
その判断を瞬時にやってしまう光国は、さすがは賀茂保憲の次男にして、陰陽博士の地位を賜る男。
勘の鋭さは侮れない。




