重鎮達の密議 ―壱―
「単刀直入に言うぞ、親父。 俺は絶対に反対だ」
光栄は今までとは違う、怒りをまるで隠そうとしない眼差しで保憲を睨む。
その光栄の眼差しをしばらくじっと見つめ、やがて深く長いため息をついた。
宣言通りに単刀直入すぎる言葉だ。
もしこの場に何も知らない寮官達がいたら、聞いても意味を解せなかっただろう。
しかし、保憲にはその言葉の意味をなんとなく予想出来ている。
息子の考えていることなど、親である保憲には眼差しや声音でわかるのだ。
保憲は再び息をつき、そろりと緩慢な動きで晴明に顔を向けた。
「………もしかしなくても、晴明も同じことを考えているのか?」
保憲の問いに晴明はすっと目を細め、しっかりと頷いた。
「私も反対ですよ、保憲様。 今あれらを私達から離すのはかなり危険だと思います」
「しかもよりによって吉野なんて……。 どうぞ好きにして下さいって相手に言ってるようなもんだろ」
晴明の言葉を補足するかのように光栄そう告げながら、がしがしと後ろ頭を掻きむしる。
そして、今までは行儀よく正座をしていたが、いつものように片足を立て、その上に頬杖をついて拗ねたようにそっぽ向く。
そんな光栄に保憲は苦笑混じりの疲れた表情で首を傾げてみせた。
「私とて、あの子達を吉野へ行かせたくはないよ」
「だったら何で行かせるんだよ」
光栄は頬杖をついて視線を逸らしたまま、拗ねた声でさらに言い放つ。
まるでものの通りもわからぬ幼子のような光栄の態度に、常に優しい保憲もさすがに頭を抱えた。
彼らが今保憲に訴えているのは、守道達の吉野行きの反対意見だ。
保憲も、光栄や晴明の心配は痛いほどわかっている。
二人は、子供達の立派な父親なのだ。
心配は、祖父である保憲の比ではないくらい大きいだろう。
しかし、それをいうならば保憲も同じだ。
「光栄、お前が守道を心配するように、私もお前が心配なんだよ」
保憲はやんわりと耳に心地よい響きで、子供を宥めるようにゆっくりと呟いた。
その保憲の言葉を、光栄は顔を背けたまま静かに聞いている。
隣にいる晴明も黙って保憲の言葉に耳を傾けていた。




