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賀茂陰陽伝  作者: 東雲しはる
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突然の吉野行きの理由 ―弐―

「その地には昔、沢山の命を脅かす災厄が降りかかった。 しかし、もうすでに解決していたはずだったのだが……」


保憲はそう言葉を濁しながら、何かを考えるように腕を組んで小さく唸る。

あまり見られない祖父のその行動に、守道は首を傾げてみせた。


「じいちゃん……?」


不思議そうに目を忙しくしばたたきながら、守道は祖父を呼んだ。

すると、その声に我に返った保憲は脳裏に浮かんでいた考えを全て消し去るようにゆるゆると頭を振る。

そして、再び前屈みになっていた体勢を整え、守道達に向き直った。


「いや、何でもないよ。 ただ、その後から一度もその地に赴いていないものだから、今どうなっているのか気掛かりでね……」

「ようするに、僕らに調査をしてきてほしいということですか?」


静かに保憲の言葉を聞いていた吉平は首を傾げながらそう聞く。

保憲はしばらく考えるように天井をみつめ、やがて緩慢に頷いた。


「簡単に言うならば、そうだ。 難しいことを頼むわけではではないから、安心しなさい」

「なんだぁ……、よかったー」


やんわりと優しく微笑んだ保憲を見ながら、守道は安堵したように肺が空になるほど深く息を吐く。

あれこれと悪い方向に考えてしまったが、どうやら違うようだ。

何はともあれ、その考えが全て杞憂に終わってよかった。


「本当は、いずれ光栄と晴明に調査をさせようと思っていたが、あの子らも忙しくてなぁ……。 また今度、また今度と後回しにしているうちに、今日までずるずると引き摺ってしまったのだ」

「ですが、光栄様や父上に渡すはずだったものを、まだ一介の学生でしかない私達に頼んでもよいのですか?」


疑問を投げ掛けたのは吉昌だ。

その疑問に同調するように吉平が首を傾げて保憲を見上げ、ゆっくりと口を開いた。


「それは僕も思っていました。 何も陰陽寮に通い始めて僅か数年程度の僕らより、遥かに優れた陰陽師はいるでしょうに……」


吉昌と吉平の言葉を静かに聞いていた保憲は、しばらく二人をじっとみつめる。

そして、あまり口を挟まないでいる守道も目に焼きつけるように言葉なくみつめた。

守道は思わずごくりと生唾を飲む。

まるで、心の中を覗いているような保憲の眼差し。

どうしてだろう。

ざわざわと心がざわついて落ち着かない。

守道は膝の上に置いていた手を白くなるほど強く握りしめた。

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