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死神僕 3

 午後の授業は、ほとんど頭に入ってこなかった。

 美少女さん、美少女さん。あなたは一体どこの誰? 

 二時限分の授業時間いっぱいかけて考えてみたが、やっぱり、知らない、という結論に達した。

 それにしても、知り合いでもない彼女が、どうして俺の名前を呼んでくれたんだろう? まあ、彼女は俺のことを知っていたんだろうな。つまり、彼女が一方的に俺を見知っているという、この関係性――。

 もしかして――。いやいや、まさか、そんな訳……でも、そうとしか思えない!!! 

 俺はゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと考えを言葉にする。


 あの美少女は、俺のことを見ていてくれたのではないだろうか――?

 

 想像した。

 廊下で、体育館で、校庭で、あるいは登下校時の電車で、美少女は人知れず俺を見つめているのだ。俺は美少女に見られていることに気付かない。のんきに友人の亮介なんかとくだらない馬鹿話をしてるんだ。すれ違いざまに美少女は思わず手を伸ばす――。だが鈍い俺は見向きもせず、通りすぎてしまう。美少女は少し肩を落として、俺の背中を見送る。甘い恋心を小さな胸に秘めながら――。

 ッカァーッッッ! ベタだけどいいなあっ! んもう! さっさと告ってきてくれればいいのに!

 

 ……お待ちなさい。


 冷静な俺が、幸せな脳内スイーツタイムに水を差した。

 あんなに可愛い子が、今までなんの噂にもならずに、彩高に通っていたと? そんなことあるはずがないじゃないか。

 彩高が微妙に都心から離れているせいか、俺達生徒はいつだって退屈していて、常に刺激を求めているのだ。天使過ぎる彼女がこの学校に通っていたら、それこそおはようからおやすみまで、彼女の一挙手一投足がセンセーショナルに取り沙汰されていること、間違いなし。

 ということは、今日転校してきたとか、あんま考えたくないけど……不登校だったとか? いずれにせよ、彼女は今まで学校にほとんど、いや、全くと言っていいほど顔を出していないはずだ。故に、彼女が実は俺に恋していた、なんてことは、……ない。うわーん、悲しい……。


 まあ、そもそも、馴れ馴れしいなんてレベルじゃなくベタベタに絡んできたあの子が、好きな男を遠くから見るだけで満足するわけないよなー。それこそ、いきなり婚姻届突き付けそう。

 んー、白紙に戻る、か。

 

 放課後、俺は美少女の言うとおりに教室で待機した。他のクラスメートの手前、何でもないような顔を作って見せているが、血管が破裂しそうなくらいドキドキしている。心なしか、腹の調子もよろしくない。

 無理もないだろう。この後控えているのは、もしかしたら、俺の人生の伴侶が決定するかもしれない、超重大イベントなのだから。今のうちにトイレ行っとくべきかな……。

 手持無沙汰にスマホをいじってみてはいるものの、緊張しすぎて一文字も読めやしない。ただ眺めているだけ、と言ったほうが正しい。

 手汗がひどかった。くっきりした輪郭の指紋が、画面に世にも気持ち悪い模様を描いている。こんなのあの子が見たら引くんじゃなかろうか? やだぁ、下部油キモーイ! とか言われちゃうんじゃなかろうか? 

 ティッシュで拭きとり、またスマホをいじる。だが、しばらくするとまた指紋が気になった。ティッシュで拭う。

 そんな無益なことを繰り返すこと複数回。ふと顔を上げると、クラスに残っていた生徒は部活に行くか、下校してしまったらしく、教室にいるのは俺だけだった。

 そりゃ、そうだよなー。ホームルームが終わってから一時間半も経ってるし。いつまでも教室に残っている奴なんて、よっぽどの暇人か、約束すっぽかされた奴くらいじゃね? プギャーッ!!!

 ……俺、……からかわれていただけ、だったんですかね? 一人淋しく落涙する寸前――。


 「だ―れだ☆」


 柔らかい小さな手が、俺の視界をふわりと隠した。俺の心臓が爆発しそうなほどに鼓動を打つ。

 「あ、あの、昼間の……」

 なんだか、急に喉がカラカラに乾いてしまった。かすれ声しか出なかったことが妙に恥ずかしくて、顔が熱くなった。

 「正解です!」

 明るい声とともに俺の目を覆っていた手が取り除かれて、美少女のはじけんばかりの笑顔が飛び出す。


 ……ああ、……天使って、いたんですね☆

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