死神僕 0
嫌な夢をみた。
単純なストーリーだっただけに余計に真実味があって、本当に夢だったのか疑ってしまうほどだ。
夢の中で俺は、なんとなく眠れなくて、深夜に近所のコンビニに出かける。
コンビニはそう遠くない。家を出て住宅街を直線で徒歩三分、突き当たりの公園を左手に曲がって五分も歩けば到着する。
街灯が設置されているとはいえ、駅から離れた閑静な住宅街だから、辺りはかなり暗い。通りを挟むように建っている家々の明かりはほとんど消えているし、たまについていたと思っても分厚いカーテンが光を遮断していた。
遠くからバイクのエンジン音が聞こえる。近くで聞こえるのは俺の足音だけ。静けさが、より一層暗さを引き立たせているようだった。
コンビニに着いた俺は、少し漫画を立ち読みしてから、飲料コーナーでペプシを買う。
店外に出て、さっそくペプシを開けた。ピシッと小気味良い音とともに、炭酸のツンとした刺激が鼻を刺激する。
ガラス越しに店内の時計を見ると、午前三時半だった。遅刻しないように朝七時には起きたいところだ。今から帰って、三時間寝られるかどうか。
帰ったからといってすぐに眠れる気はしないが、帰らないわけにもいかない。仕方なく帰路についた。ペプシで喉を潤しつつ、ダラダラと歩く。
相変わらず、俺の足音しかしない。日の出にはまだ時間があるようで、辺りはまだ暗いままだ。
途中、スマホでSNSを開き、グループのメッセージを読んだりした。
『本当の優しさってなんだろうね…』か。また微妙な……。何か返さなきゃとは思ったが、気のきいた返事が思いつかない。しばし立ち止まって考える。
そのとき、俺以外の足音がした。ドキリとして振り返る。と、視界が一面、青色のチェックで埋め尽くされていた。思考は状況を把握出来ずにフリーズ。同時に、左下腹に熱を感じた。
どろりとした温かい液体が吹き出し、パジャマ代わりの薄い黄色のTシャツと紺のジャージのパンツにじわじわ広がっていく。
時間の流れがスローモーションになる。俺はアスファルトに跪き、ゆっくりとうつ伏せに倒れた。
薄ぼんやりする視界の中、誰かが走って遠ざかっていくのが見えた。呼び止めようとしたが、うめき声しか出ない。
下腹の、熱くなっている部分に手をやる。ぬるっとした感触と、耐えがたい激痛。俺はやっと刺されたことを理解した。
アスファルトはごつごつしていて石油の匂いがした。頬が小石に当たって痛い。俺は身体をよじりどうにか仰向けになった。
身体の下に血だまりが出来ていた。血で濡れたTシャツが夜風で冷やされて、容赦なく体温を奪っていく。なんだか去年スキ―で行った真冬の山を彷彿とさせる。あの時食べた豚汁、美味しかったなあ、なんてどうでもいいことを思い出し、苦笑した。これが俺の走馬灯なのか?
そこで、一度意識は途切れる。
どれくらい時間が経ったのか。誰かが俺の身体を揺すっていた。
「生きてますか?」
女の声だ。俺は目を閉じたまま、返事代わりに荒い息をする。
「生きたいですか?」
普段ならこんなこといきなり聞かれたら訝しがるだろう。だが、そのときの俺は何の疑念もなく頷いた。
女はその後も何やら話していたが、頭がぼうっとしていて何一つ理解できない。俺は壊れた機械人形のようにガクガクと頷き続け、――絶命した。