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次の日は山の中、次の日は街をさまよう。だが、見つからない。
調査といっても、闇雲にそれらしい場所を歩き回り、当てずっぽうで何となく怪しそうな場所があれば付近を確認するという方法だ。当ても無いのでしょうがないのだがひどく非効率だ。
行方不明者たちは地元の人、旅行者。男性、女性。十代、二十代、四十代。出身地、性別、年齢。彼らには共通点が見つけられない。
死体の近くに行けば僕には臭いで分かるはずだが、今まで歩き回って死臭の感じられた箇所は今のところ無い。
唯一良かったことといえば、一緒に行動するようになって美琴に初対面のような刺々しさは無くなったことだ。
「美琴ちゃんは学校行かなくて大丈夫なのか」
「学校はもう自由登校になっているから。そういえば、あなたは大学生なのよね。やっぱり大学生って暇なの?」
「『やっぱり』って言い方はちょっと引っかかるけど、学部によって違うかなぁ。理工学部とか、医学部の人たちはびっちり講義が入ってるみたいだし」
「美琴は高校卒業後どうするんだ。進学するのか?」
「…しないと思うわ」
「何で? 偏差値が足りないとか」
「やりたい事ないし…」
「それを見つけるために行くのも良いんじゃないか。明確な目的があって大学行く人なんてほとんどいないぞ」
美琴は妹の友達だという娘がまだ生きていると思っているのだろうか。彼女の生死については全く口にしていない。
それに妹の友達って…、美琴自身とは友達じゃなかったのだろうか。こんな熱心に探しているのに。
「わたしに友達はいないわ」そう言った美琴は何かを振り切るように、そしてすごく寂しそうに見えた。
僕の勘違いかもしれないけれど。
1日歩き回ると、もうへろへろで立ち上がれなくなる。帰ると速攻で部屋で大の字になり、風呂に入るまでまったりとする。それに反して美琴は全然平気そうだった。
気がつくと携帯の着メロが鳴っていた。少しうとうとしていたらしい。
「もしもし。楠木です」僕は携帯を取り、通話ボタンを押す。
「もしもし。こんばんは。」
調査を依頼した女性の声だ。あわてて起き上がる。
「すいません。調査の件ですけど、まだ何も進んでなくて」
「あ~、その件だけどもう良いわよ。調査終了で。ちゃんとお金は振り込んでおくから」
「どうして? 何も分かっていないのに」
「今回の行方不明事件は普通人間の仕業よ。まあ、こんな事件を起こす人間を普通といっちゃ変だけど。とりあえず、人外の者は関わっていないはず」
「どうしてそんなことが?」
「今その付近にいるのは山を挟んだK村にいる山岡神社の巫女さんだけだから」
「山岡神社の巫女さんって……」
「美琴ちゃんといってかわいい子よ。彼女が無関係なら…」
美琴が事件の犯人だなんて考えもしなかった。
──彼女は犯人なんかじゃない。
「彼女は無関係ですよ。それどころか僕と一緒に行方不明になった子の探索しまでしていますよ」
「あっ、美琴ちゃんと会ったんだ。じゃあ、まさか血を吸われちゃった?」
依頼人は楽しそうに訊いてくる。
「いいえ。彼女に会った事があるんですか。それに、そんなこと言うって事は吸血鬼って事まで知ってるんですか」
「直接の面識は無いわ。で、血を吸われちゃった?」
「そんな闇雲に血を吸う子だったんですか」
とてもそんな感じはしなかった。
「まさか。彼女にとって血を吸うって行為は自分の能力を開放する儀式を意味するの。だから、彼女は自分が好意を持っている人の血しか吸えないのよ。嫌いな人の血は彼女にとって毒でしかない。だから雅史君はどうなのかな~、と思って。
――それはともかく、私の依頼は完了って事で、帰ってきちゃって良いわよ。人間が起こした事件は人間が解決しなくちゃ」
直接聞いたことは無いが、この人も人間ではない存在らしい。何処かの組織に属していて、人間に害をなす人外存在の探索、場合によっては排除を行っているそうだ。
だから人間の起こした事件は管轄外なのだろう。
「いいえ。もう少しここにいます」
「行方不明の子たちはもう生きていないはずよ」
「それは美琴も覚悟していると思います。美琴にとっては犯人が人間でも、そうでなくても多分関係ないんです。親しい人がどうなったのか自分の目で確かめたいんだと思います。でも、美琴が納得するまで付き合いたいんです」
それには犯人探しも含まれるだろう。
「そっか~、雅史君がそんな事言うなんて……愛ね」
「違います! 成り行きです」
「美琴ちゃんかわいいものねぇ」
「だから違いますってば」
「了解~。頑張って」
勘違いしたまま言いたいことを言った彼女は満足して電話を切ってしまった。
「いったい何を頑張れって言うんだ。この人は」
行方不明者探索ではないことは確かだろう。
今日も街をさまよう。昨日も行方不明者が出たと、地元ニュースで放映していた。
なぜ見つからないのだろう。もう町のほとんどの場所を探している。しかし、全く死体の臭いが感じられない。
僕は行方不明者が死体になっていることを前提にしていたが、もし死んでいないとしたら…
それなら、これだけ探し回って全く死の臭いが感じられない説明がつく。
明日で最終話予定です。




