風
きみはいたよ。
亜里沙。
誰もがきみを憶えていなくても・・きみは確かにここにいたんだ。
・・・・・亜里沙。
「僕」は今でも憶えているよ。
きみは、病んだ少女では無いんだ。
回想
当初、「僕」は「藤岡先生」と呼ばれていた。
小児科の担当だった。
毎日、泣き叫びながら注射を打つのを我慢している子供達の病気を治すのが
その頃の「僕」の務めだった。
・・でも、「僕」は小児科より、外科に就きたいと願っていた。
その時の「僕」は・・かなりの子供嫌いで、いつもキツイ態度で接していたらしく
中学生以下の子供には人気が不評だった。
(別に好かれても嬉しくは無いが)
特に理由も無く、子供が嫌いだった。
そんな中で、「僕」と亜里沙は出会った。
亜里沙は結核だった。
・・・・それから
彼女は「僕」の受け持ちになった。
亜里沙は普通より少し変わっていた。
子供らしく、部屋で泣き叫ぶ事も、騒ぐことも無かった。
まだ・・とても幼いのに。
いつも、何をしているか分からなかった。
只、ボーっと窓の外を眺めて・・・
「僕」は思い切って聞いてみた。
「何を見てるの?」
すると、彼女は答えた。
「風を見ているの」
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・。
これは、亜里沙が死ぬまでの・・たった2ヶ月の記録だ。