シーユーレイター・アリゲイター、インアホワイル・クロコダイル 3
私は朝食を作るのをやめて、冷蔵庫からサラダを取り出した。冷蔵庫にはイエロー・テイルのシラーズがよく冷えていたが、さすがに朝からアルコールを飲む気分にはなれなかった。
サラダの入ったボウルをテーブルに持って行くと、赤い蝶ネクタイをした2匹の手乗りザルが簡素なテーブル・クロスを敷いていた。机の上に乗り、小さな体を器用に使うその姿は、ベッド・メイクに手慣れたホテルの従業員みたいだ。私はサル達の用意してくれたテーブル・クロスの上にサラダ置いて、戸棚にあるフランスパンに手を伸ばした。フランスパンは既に食べやすい大きさに切られていた。これも私が昨日のうちに済ませたものだろう。横目でサルの方に目をやると、1匹のサルが見事なジャンプで食器棚に飛びつき、引き出しを開き、自分の背丈ぐらいはあるフォークを抱えてもう一度テーブルに飛びついた。さすがにフォークを抱えていては少し私もドキドキしたが、サルは私が思った以上にうまくやってのけた。そこには不安というものが感じられなかった。「いつもやっていることだぜ」という感じでサルはやってのけたのだ。「でも気をつけたほうがいいよ、慣れてきたこととか、慣れ親しんでいることこそ本当は危険なのよ」私は心のなかでそう囁いた。
「ありがとう」
私がサル達にそう言うと、彼らは満足したように、心なしかニッコリとした表情を作って消えていった。
バターと真っ白なお皿を持ってきたところで、冷蔵庫にあったオリーヴのことを思い出した。テーブルに戻る前にオリーヴを1つ口にして、その味を確かめた、悪くない。オリーヴの塩辛さが私に喉の渇きを知らせ、喉の渇きがトニック・ウォーターを思い出させた。
「神様、たしかどこかにトニック・ウォーターがあったわよね?あれってどこにいっちゃったのかしら?」
「玄関だよ。冷蔵庫がいっぱいだったんで、できるだけ暑くないところに置くって言ってたじゃないか」
「そうだったわ、ありがとう」
「いいんだよ」
オリーヴの瓶を持ったままトニック・ウォーターを玄関まで取りに行くと、3匹の蝶々達が話し合いをしていた。私が近づいて来るのを感じたのか、トニック・ウォーターに手を伸ばしたところで彼女たちはどこかへ飛び去り、消えてしまった。彼女たちはとてもシャイなのだ。
トニック・ウォーターをコップに入れて、私はやっとサラダを食べることにした。ドレッシングを持ってくるのを忘れたと思ったが、サラダには既にシーザー・ドレッシングがかかっていた。私にはそれをかけた記憶がなかったが、それが自分でやったことなのか、あるいは向かい側の椅子に座って本を読んでいる眼鏡のてんとう虫がしてくれたのか、私には判断ができなかった。
ラジカセがもう一度息継ぎをした。また新しい歌を歌い始めるのだ。太陽の光が背中から私を包む。爽やかな炭酸が喉の奥で弾ける。私はまだパジャマで、髪の毛もセットしていない、それはあまりにも眠りから覚めたに相応しい格好だった。あとは熱いシャワーを浴びれば私は生まれ変わるのだ。ついさっき生まれたように、また1日をはじめるのだ。
一呼吸を置いたラジカセがまた奏で始める。
またあとで(シーユーレイター)、アリゲイター。ああまたね(インアホワイル)、クロコダイル。
さようなら(バイバイ)、蝶々(バタフライ)。ハグしておくれ(ギヴアハグ)、てんとう虫。