シーユーレイター・アリゲイター、インアホワイル・クロコダイル 1
窓から光が差し込んで、瞼の向こう側から私の眼球を照らしている。眼を閉じて眠っていても、太陽の光がはっきりと感じられる。
そのうちに。どこからともなく黄色い大きなくちばしをもった真っ黒な大きな鳥がやってきて、やはり黒い羽に覆われた翼の間から金色に光る懐中時計を取り出した。鳥はチラリと時計を見ると、まるで国歌斉唱を始めるサッカー選手みたいにきちんと立ち直した。器用に懐中時計を持った翼は後ろで組まれている。
黒い鳥が僅かに踵を上げて息を整えたかと思うと、突然、ギィギィギィー!!と、とてつもない騒音をたてて鳴きだした。それは鳴き声というよりは叫び声に近くて、私にはとても不快な音に感じられた。
私はそうやって目を覚ました。不快な、鼓膜にねじ込むような鳴き声でわめきたてられたのだから、それはもちろん不快な目覚めだったし。同時に不快な朝だった。
どれくらいの時間眠っていたのか私は全然覚えていなかった。私はいつもどれくらいの時間を眠って過ごしていたかわからない。眠っている間に時間ネズミがやってきて、私がいつ眠りについたのかという記憶を持っていってしまうのだ。時間ネズミはそうやって、どんな痕跡も残さずにどこかへ行ってしまう。黒い鳥が何も残さずに消えてしまっているように。
「ああ、良く寝たのかしら。神様、私はよく眠っていたのかしら?」
「泥のように眠っていたよ」
「ねえ、私思うんだけど、泥は眠ってなんかいないわよ」
「君が知らないところで眠っているんだよ」
「そういうものなの?」
「そういうものだよ」
どこからか神様の声がした。それはどこか高いところから聞こえる、私の住んでいるマンションの上の部屋のさらに向こう側、空のずっと上の方から聞こえる。だけどそれは同時に私の頭の中から聞こえてくる。
「まだまだ遅い時間じゃないけど、そろそろ起きたらどうだい?」
「起きてるじゃない」
「何か行動を起こしたほうが良いってことだよ」
「どうして?」
「わかっちゃうんだよ。もし君がずっとそうやってベッドの上でごろごろしていたら、君は後悔することになる」
「それもそうね」
「することがない日こそ、いろいろやってみるんだよ」
「そうかもしれない。たしかに、何となくお昼なんかに目が覚めちゃったら嫌な気分になっちゃうし」
「朝食でも作るといい」
「そうね、神様の言うとおりにしてみるわ」
私がベッドから降りると、パジャマの袖から小さな灰色ワニが飛び出した。ワニはラジカセの所まで行って素早く再生ボタンを押した。カチッ。小気味の良い音がなってラジカセは歌い出した。それと同時に灰色ワニは消えてしまった。
フランク・シナトラの歌うリトル・ガール・ブルーが聞こえてくる。何となく、天気の良い朝には似合わないけれど、何となく、天気のいい朝のフランク・シナトラが私は気に入った。
座って、指折り数えてごらんなさい、あなたに何が出来るかしら?歳をとった少女。子供の時代は過ぎ去ったの。
さあ、座って、その小さな指で数えてみて、ツイてない、憂鬱な女の子。
座って、指折り数えてごらんなさい、降りかかる雨粒を。わかったのよ、もう。みんなこの雨粒ぐらいのものだって。