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ただの下校中、雨がポツリと降り始めた
雨か、、、憂鬱だな。
いつもと変わらない退屈な生活。小雨であるがこの退屈さも相まってより足取りが重くなる。家に帰るだけなのに。
だんだん雨も強くなってきた。気怠さにやられながらも傘もないので急ぎ足進む。この公園を抜ければ家に着く。
そう思いながら走っていると変わらない景色の中にふとあり得ないものが目に映り込む。血まみれの少女がいたのだ。驚いたが慌てて近づいていくとさっきの状態が嘘のように傷がなくなっている。
あまりの驚きに声も出ずにいたが、憂鬱さは消え去り強まる一方の雨も軽く感じた。
雨音の中少女は口を開いた。
「君、今の見てた?」
「その様子、見てたんだね」
そう言った少女はゆっくりとこちらに歩いて来る。死が迫って来ている、そう本能が訴えかけていた。
足が、動かない。
雨の音が、聞こえない。
息が、出来ない。
今の音は何だろう。肉体を引き裂く音?アニメやドラマで聞いたものより生々しい。
目の前には槍に貫かれた少女の姿…?
「命拾いしたね」
少女はニッコリと微笑み槍を勢いよく引き抜いた。血飛沫と雨が混ざり悍ましい空間が広がる。
「ケホッ…ケホッ…」
血を吐いて項垂れる少女。そしてその背中には赤い翼が生えていた。少女はすぐに飛び立って行った。息をする暇もないほど一瞬の出来事だった。最後に見えた少女の姿はまるで怪物の様だった。
唖然としていると正面からスーツに身を包んだ男が現れた。
「危ないところだった、私としたことが一般人を巻き込むところだった」
槍を拾いながら続ける。
「人払いの香を焚いていたのだがな、雨のせいか薄れていたか」
あまりの出来事に考えがまとまらない。
い、いまの少女は、?傷は、、?その槍は、、人に、、、刺した、、?
考えがまとまらず声も出さずにいると男が
「危険な目に遭わせてしまってすまない。私の失態だ、今後このようなことは起こらないよう努める。まあ一般人に知られてはいけないことだから記憶処理をさせてもらうから君にはもう関係ないことだがな」
その言葉を最後にフッと意識は途絶えた。
寝室で目を覚ました。
家の入り口の段差で倒れていたらしい。そんなところで転んで気を失うか?普通。
はあ、何やってんだろ。
目が覚めた時何か退屈な毎日が変わった。そんな気がした。
現実はそんなことなかった。ただ脳裏に見たことないはずの少女が張り付いて離れなかった。
もうすぐ文化祭ということもあってか、教室はいつも以上にどこか落ち着きがない雰囲気であった。
クラスの中心人物たちがクラスの出し物を何にするかで騒いでいる。
「お前は何かいい案ないのかよ」
唐突に前の席の大川が声を掛けてきた。
「ないよ、なんで俺に聞くんだよ」
「いや、お前よくこういうのに首突っ込んでたじゃんか」
「いつの話だよ」
「それにしてもお前、いつにもましてボケっとしてるなぁ」
やかましいわ、そんなことを思いながらふと窓の外に目をやると、校門の前で立っている少女と目が合った。
間違いない、あの少女だ。血の気が引く。全身から汗が噴き出す。手元が震える。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。大丈夫…大丈夫…」
自分に言い聞かせるように声に出したが収まらない。
「なぁ、こいつ気分悪いらしいから保健室連れていくわ」
「おお、え?大丈夫?」
クラスの連中に見守られながら、大川の肩を借りながら教室を後にする。
「一人で、大丈夫だから…」
「大丈夫って言ってる人間は大丈夫じゃないと相場が決まってるんだよ。遠慮すんな。」
大川はそう言っていつもみたいにカラっと笑う。
違う、そうじゃない。何か、巻き込んでしまいそうな気がしているんだ。
上手く声が出せない。
「過呼吸気味か。大きく息を吸うんだ。気ぃ失われたらこっちがしんどいんだから。」
そんなことを言われながら階段を降りると、廊下の先に、いた。
固体の溝部と液体の溝部と気体の溝部が。
「溝部……先生……?」
学年主任の溝部先生だった。
だけど何かおかしい。
そもそも何で溝部先生が3人もいるんだ。
違う。溝部先生じゃない。
「はじめまして、少年。」
そう言った男の手にはどこか見覚えのある槍が握られている。
思い出した。
僕は前にこの男に、そしてあの少女にも会ったことがある。
だがあとの2人は誰だ。
姿形こそ人間だが、1人は身体の末端が歪み垂れ落ちている。
もう1人は輪郭が曖昧で廊下の向こうが薄っすら透けている。
「その顔、やはり以前のことを思い出してしまったのだな。
やれやれ、記憶処理も万能ではないのだよ。1人でもこれなのに、今回は2人分の記憶をいじらねばならんとは、いささか面倒だな。」
最も人間らしい形を保った男、固体の溝部がそう言ったのも束の間、隣にいた大川がドサッと音を立てて床に倒れた。
「あのさぁ…うちの学校で勝手に暴れないでくれる?」
突如として私の前に現れたのは生徒会長だった。
生徒会長…?どうしてここに?
「君は2年の八戸くんだっけ?ごめんね。怖い思いをさせて」
少なくとも生徒会長は私の味方である。この安心感だけで一気に体から力が抜けてしまった。
「キーパーがこんなところに…?なるほどこの学校に張られていた結界は貴方のものだったか。ここの民を守ってくれたことに感謝する。あとはその男の記憶処理だけだ。」
溝部がそう言いながらこちらに歩みを進めてくる。
「勝手に話を進めないでくれるかな。うちの可愛い生徒にこれ以上関わらないでほしいんだけど。」
♪♪♪
会話を遮る様にして電話の着信音が廊下に鳴り響く。会長のポケットからだろうか。
「お、ようやく連絡が来た」
そう言うと会長はスマホを取り出した。
『会長!少女を目標地点まで誘導しました!』
「だってさ。赤羽の天使ちゃんはもうここには居ないよ。今頃はもう海岸ら辺かな?早く追いかけたら?」
「電話の向こうにキーパーがもう1人…か。君たちは一体何者だ?」
「大間崎第一高校生徒会。ここはうちらの自治区だから。分かったらさっさと立ち去りな。」
気体、液体、固体の男は一つにまとまり勢い良く窓から飛び出て行った。
唖然としていると会長が振り返ってニッコリと笑った。
「知ってると思うけど軽く自己紹介!私は生徒会長の弘前ユイ。たった今から君もうちらの仲間!ようこそ生徒会へ!」




