第四章「初めての依頼」
朝の光が街を照らしていた。
市場はすでに賑わいを見せ、
人々の声と足音が交錯している。
カイゼルは立ち止まっていた。
目の前にある建物を見上げる。
――冒険者ギルド。
「ここでいいの?」
隣でルミナが小さく首を傾げる。
「ああ」
短く答える。
理由は単純だった。
――金がない。
生きるためには、動くしかない。
ギルドの扉を押し開ける。
ざわめきが一瞬だけ止まり、
すぐに元に戻る。
視線が刺さる。
だが、気にする意味もない。
受付へ向かう。
「依頼を受けたい」
淡々と告げる。
受付の女性は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、
すぐに仕事の顔に戻った。
「登録はお済みですか?」
「していない」
「では、こちらに」
簡単な手続き。
名前、年齢、戦闘経験。
紙に記入しながら、ルミナが小さく覗き込む。
「……カイゼル・ノクス」
その名前を、彼女は大事そうに口にした。
登録が終わる。
木製のプレートが渡された。
「本日から冒険者として活動できます」
「……そうか」
それ以上の感想はない。
だが――
生きる手段は、手に入った。
掲示板へ向かう。
依頼書が並ぶ。
採取、護衛、討伐。
カイゼルの目は、自然と討伐依頼へ向いた。
「これ」
一枚を手に取る。
――魔物討伐(低級種・複数)
ルミナが覗き込む。
「危なくない?」
「問題ない」
即答だった。
迷いはない。
「じゃあ、私も行く」
当然のように言う。
「来るな」
反射的に拒む。
だがルミナは引かない。
「行くよ」
「足手まといになる」
その言葉は、かつて自分が言われたものだった。
だが――
ルミナは微笑んだまま言う。
「それでもいい」
「……は?」
「だって、私はあなたを支えるためにいるから」
まっすぐな言葉。
揺らがない意志。
カイゼルは一瞬だけ言葉を失う。
(……理解できない)
だが、拒みきれない。
「……好きにしろ」
結局、それしか言えなかった。
ルミナは嬉しそうに頷く。
「うん」
――依頼受理。
二人は街を出た。
森へと向かう。
静かな空気。
風の音。
そして、気配。
「来る」
カイゼルが呟く。
次の瞬間、茂みが揺れる。
魔物。
数は三。
低級種だが、油断すれば命を奪う。
カイゼルは前に出る。
だが――
「待って」
ルミナの声。
一瞬だけ動きが止まる。
「今、少しだけ強くする」
彼女の手が、そっと彼の背に触れる。
淡い光が広がる。
温かい。
「……これは」
「支援魔法」
短く答える。
その瞬間。
身体が軽い。
視界が澄む。
力が、明確に底上げされている。
(……違う)
今までとは、明らかに違う。
「いけるよ」
ルミナの声。
背中を押される感覚。
カイゼルは踏み込む。
速い。
以前よりも、確実に。
一体目。
一閃。
二体目。
連撃。
三体目。
回り込み、斬る。
一瞬だった。
魔物はすべて倒れていた。
静寂。
「……終わり」
カイゼルが呟く。
だが、前とは違う。
(……感じる)
わずかだが、確かに。
戦いの“手応え”。
振り返る。
ルミナがそこにいる。
少し息を切らしながら、微笑んでいる。
「……どう?」
その問いに、カイゼルは少し考える。
そして。
「……悪くない」
それが、彼なりの答えだった。
ルミナは嬉しそうに笑う。
「よかった」
その笑顔を見たとき。
ほんのわずかに――
胸の奥が、温かくなる。
(……なんだ、これは)
理解はできない。
だが、嫌ではない。
「次もいける?」
ルミナが聞く。
カイゼルは剣を握り直す。
「ああ」
短く答える。
だがその声には、わずかな変化があった。
――一人ではない。
その事実が、戦いを変える。
二人は並んで歩く。
森の奥へ。
まだ弱い連携。
だが確実に始まっている。
“共に戦う”という関係が。
これは、ただの依頼ではない。
最初の一歩。
二人が“パーティー”になる瞬間。




