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婚約者が『杖』を壊しまくってンだわ

作者: いのりん

加藤あつし先生の不良漫画にインスパイアされてんスわ

つまり、「ちょっと男子ィ!」なネタがあるわけヨ

 前世の俺は硬派な走り屋でヨ。

 オンナには目もくれずDT(ドラテク)を磨いてきたんだワ。

 まあ、チビの小太りでよく先走る俺の助手席に乗りたがるマブがいなかったのが大きな理由なんだが……


 そんなある日、『超高速ドライブ中に窓から手を出せばハリある巨乳を揉んだ感じになる』って噂をきき、試すことにしたんだワ。

 左手で太陽光発電できないなら、右手で風力発電ってワケよ。


 深夜、人気のない山の降り坂でアクセル踏みつつ手を出してみたら確かにそれっぽい感触がしてヨ……伝説のF1レーサーは高速ドライブ中に神の存在を感じたらしーが、俺は女神の存在を感じたね。


 その時、神託が聞こえたんだワ。


『コレ、顔も出せば女神の谷間にダイブした感じになるんじゃね?』


 愛車のガルウィンクドアをバコンと開けて顔をグイッと出してみたら、風圧でコントロールを失ってそのまま車ごと谷底にダイブ、前世からコースアウトしたんだワ。


 正直下手こいた感はある。

 でも来年は2000年でヨ、恐怖の大王ってヤツがきて人類滅亡らしいから死ぬのが一年早かっただけだナ。走り以外は退屈な人生だったし、あんまり未練もねー。



 そんなわけでしっかり成仏したはずの俺は現在、とある理由で異世界で中級貴族のボンボンになってんだワ。


 ジゴーロ・カメリーオ


 それがこの身体の元の持ち主なんだが、魂の記憶を遡る魔道具ってのを開発中に失敗。前世の記憶と人格が上書きされちまったみてーだ。


 でも可哀想だとはあまり思わねー。

 だってコイツ、なまじ顔がよくて賢いが故に周りを見下して威張りちらす嫌なヤツだったみたいなのヨ。


 その証拠にほら


「ジゴーロ様、申し訳ありません。頂いた杖を……また壊してしまいました。」


 婚約者が、今日も萎縮してンだわ。

 そう、何と俺、齢17にして婚約中なのヨ。そんで


 シルビア・ツシカトーア


 それが目の前にいる婚約者の名前。

 今の俺より3つも若い14歳で、全然アカ抜けてねーガキって感じ。顔立ちは整ってるんだが、マブいっつーよりモブい。

 他の貴族令嬢みたいな化粧っ気がなく、カラフルな髪の色したチャンネーだらけのこの世界では珍しい黒髪だ。


 しかしなんと、実はこの国の王女サマである。


 それが何故、中級貴族のジゴーロなんかと婚約してヘコブルってるかと言うと、魔術がダメダメだから……らしい。


 この世界にはマイノリティながら魔力のある一族がいて、魔力があれば誰でも使える『魔道具』ってのがある。

 また、それとは別に、杖に上手いこと魔力を流しブーストさせると『魔術』ってのが使えるんだけど、この『魔術を使える』って事が、王族としてすっげー大切みてーなンだわ。


 シルビアは魔力があるのは確認済みなんだけど、どの系統魔術を使おうとしても何故か杖が壊れる。

 んで、赤なら炎!とか髪の色で得意系統が分かる中、前例のない黒髪だったことで六系統どれも適性がないと判定され軽んじられるようになったらしい。不憫。


「いや、別に謝る必要はねーゾ。むしろ、冷静に考えてみたら俺が杖にいいセッティングできてねーのが悪ィ。こちらこそ、今まで八つ当たりしてきて悪かったナ。」

「そ、そんなこと……」


 それで、王様は魔道具開発の才能があるからという名目でジゴーロと婚約させたらしい。いつかシルビアでも魔術を使える杖を作ってくれる事を期待する……という建前で。

 でも実際は期待しているわけじゃなく、王族として相応しくない娘を中級貴族に押し付けて厄介払いって感じみたいだナ。


 しかし、ムダにプライドが高いジゴーロはそれに我慢がならずシルビアに自作の杖を渡し続け、しかし失敗続きでキレ散らかしていたらしい。

 もちろん俺の人格になってからはできるだけ優しくしてるが、根は深いナ。


「なあ、もしシンドかったら諦めちまってもいいゾ。」

「……あの、私にはもう何も期待できないという事でしょうか?」

「あー、違う違う。シルビアはどうしたいのかって話。」


 ぶっちゃけ魔術なんてつかえなくっても、生きてくのには困らねーからヨ。俺の前世みたいに、バカやりながら楽しく暮らしてもいいべ?


「できればもう少し頑張ってみたい。申し訳ありませんがジゴーロ様にご協力頂きたいです。」

「ん、わかった。ただ、今度からは失敗しても謝んなくっていいゾ」


 DT(ドラテク)と一緒よ。ミッション車は初め失敗しながら覚えていくってワケ。「ねぇキミ、レバーいれる場所はそこじゃないワ♡」みたいに。

 ミッション◾️ンポッシ◾️ル!


「見捨てずにご協力を継続頂けること、なんとお礼を言っていいか……」

「気にすんなって」


 ぶっちゃけ、婚約期間中にお前が魔術使えるようになれば俺も嬉しーのよ。だって、そうなれば家格的に釣り合わねーから婚約破棄になるじゃん?


 シルビアは悪いヤツじゃねーが、女としてはタイプじゃねンだわ。俺の嗜好は慎ましいコンパクトカーよりもド派手なGクラスよ。


 それとこの世界、貴族にはキレーな平民を妾に囲ってハーレムを作るヤツもいて俺はそれに憧れがある。元ゾク貴族でフーゾクよ。

 でも、本妻の実家が格上の場合にそれをすると大変な失礼にあたりマズイらしいのヨ。


 シルビアが成人し結婚成立まであと二年。それまでにオメーが魔術使えるようになってくれたら、婚約破棄でお互い幸せウィンウィンだゼ。


 ***


 そんなこんなで、一年経過。

 成果は……残念ながら全く上がってねンだわ。


「なんで壊れるのか自分でもわからねーんだよナ?なんか魔力がつまったり、引っかかったりする感じもなく」

「はい……『普通に使っていたのに、何もしてないのに勝手に壊れた』という感じなんです」


 パソコン壊したOLと同じようなこと言ってるンだわ。前世のバイト先で見た時はエンジニアが『んなワケあるかい!犯すぞあのクソアマ!』って後から突っ込んでたンだわ。

 でも、正直者で賢いコイツが言うなら本当にそうなんだろう。


「まあ、次の杖を設計してみるワ」

「ありがとうございます」


 シルビアはめげることなく頑張っている。コツコツ魔力を練る訓練とかもずっと続けてて、正直スゲー根性だと思うンだわ。


「いっそ、杖使わない方が上手くいったりしてナ」

「そ、そんな。試す事すら恐れ多いです。」


 そうだよなぁ。歴史上、杖のブーストなしに魔術を使えたのって伝説の大魔導士ただ一人だけで、それもちょいとビリっとする電を出す程度だったらしいし。


 と言うわけで方向性は見えないままなんだが、引き続きシルビアに協力するンだわ。


 前世の俺は生まれも外見も勉強も運動も、生まれ持ったモンがポーカーで言ったらブタばっかでヨ。

 それで何もかも嫌になって、全部早々に投げ出してたから同じような境遇でも投げ出さないシルビアはマジで立派と思うンだわ。


 だから、最近は俺も彼女を見習って結構頑張ってンだわ。職人が設計図を元に杖を作る間はヒマするから、最近は前世の知識とジゴーロが持ってた知識を合わせ、ついでに周囲も巻き込んで『空飛ぶバイク』的な魔道具を開発中。


 そのおかげで気の合う仲間もできたし、結構毎日が充実してんのヨ。


 だからこそ……

 彼女の方もなんとかしてやりてェ。


 ***


 半年程で『空飛ぶバイク』ができたのヨ。


 そしたら、竜騎士達の間で「サラマンダーより速ーい」って評判になり、特許料とかでガッポリ儲かったし人脈もできた。


 きっかけをくれたシルビアのおかげだナ。でも、金と人脈も使って色々試しても、彼女の方は相変わらず上手くいかねンだ、畜生。


 そんな日々を送っているとある日、お忍びで第二王子サマが訪ねて来た。


「ジゴーロ・カメリーオよ、吾輩の派閥に入れ。そして今後は、愚妹シルビアの杖作成などではなく俺のためにその力を使うがよい。」


 話をまとめると、どうやら第二王子サマは第一王子との跡目争い勝つために、俺の力で実績を作りてーみたいなンだわ。


 んで、俺の方のメリットとしてはコイツが王になった暁には高位貴族に取り立てるし、シルビアと別れさせ、ハーレムを作らせてやるって言ってきた。


「過分なお話ですね」

「だろう、権力とハーレムは男の夢だからな」


 ガハハと笑う第二王子。なんかコイツ、王族のくせに前世地元で「キレたナイフ」と恐れられてた不良っぽい匂いがするナ。ヤバイよヤバイよー、絶対に敵対したくねータイプ。


「しかし、お断りします。」

「何故だ?」

「杖作成は王からの依頼でもありますし。」

「そんなもの、厄介払いのための建前で期待されていないこともわかっておろう……貴様、実は兄上と内通でもしておるまいな」


 そんな理由じゃねーんだワ


「では何故」

「それはーー」





 口からの出まかせはバレると思って正直に伝えたのに、残念ながら信じてもらえなかったらしい。後日、シルビアと出かけている時ヤベー感じの奴らに襲撃されちまった。


 絶体絶命。

 つーかコレぜってー王子の差金だ。


「狙いは俺だ、オメーは逃げろ!」

「嫌です!私も戦います」


 そう言って、震えながら新品の杖を構えるシルビア。ああもう、ならコイツの魔術に賭けるっきゃねー!おきろ奇跡、あたれ大穴万馬券!


「『サンダー』!」


 バシュ!っとスゲー音がして……杖が焼け焦げた。 ありま、灰になってシンデルワコレイ


 とか言ってる場合じゃねー!

 シルビアは絶望的な顔をしている


「なんだ、びびらせやがって」

「おい、早くヤっちまうぞ」


 でも……なんか今ピンときたンだわ。


「シルビア。もう一回だ!」

「で、でも杖がもう使い物に……」

「俺を信じろ、もう一発サンダーだ」

「さ、『サンダー』あぁぁ!」


 シルビアが叫ぶと紫電が走り、閃光と轟音が視界と聴覚を奪った。そして視力が戻ると……暴漢たちが黒焦げになってビクビク痙攣してやがる!


「うお、やっべぇ!皮膚(スキン)が破れてる」

「え?こ、これ私が……」

「シルビア、今度はヒールだ」


 ポカンとしてるけど説明は後

 ヤリすぎた後のアフターヒールはお早めに!

 かかってるから、生死!



 ***


 あの後、シルビアの回復魔法で一命を取り留めた襲撃者達の自白により第二王子は失脚。

 そしてシルビアは、杖のブーストなしでも魔術を使える事と、六系統全ての魔術に適性があることが判明した。彼女の黒髪はどうやら、全部の色が混ざった結果だったらしい。


 俺の婚約者が杖を壊しまくっていたのは、たぶん魔力が異常に高すぎたせいだ。豆電球をコンセントに繋ぐと電圧に耐えきれず、一瞬で焼き切れるみてーなもんだナ。


「よってここに、神杖ヘルメースを譲渡する」

「ありがとうございます」


 てなわけで今、式典用の広場にてシルビアは国宝の杖を国王サマからもらってンだわ。伝説の大魔導士が使っていたっつー、めちゃくちゃ頑丈なヤツを。


 ギャラリーからの尊敬や羨望や嫉妬の眼差しで確信した。きっともう、彼女を陰で笑うヤツはいねぇ


「では、さっそく使って見せてくれ」

「かしこまりました」


 杖を受け取ったシルビアは、打ち合わせ通り魔術で空に向かって特大の火柱をあげようとしてーー


 ボン!!!


 ブッ壊れたンだわ、国宝の杖が。

 暴発中折れ。シルビアの魔力に耐えれなかったナ。


 周囲は唖然としている。俺はと言うと……もしかしたらこうなるかもと思ってたもンで、眉毛をハの字したシルビアに声をかけた。


「またいつものヤツか?」

「はい……」


いつも通り『普通に使っているのに勝手に壊れた』という感じだナ。国宝でもダメならコイツの超魔力に耐えれる杖はもうこの国には存在しねぇ。


だから、コレはもうしょうがねンだ。


「いつか俺が壊れねー杖を絶対に作ってやっから、それまで我慢しろナ」


 一転してパッと顔を明るくするシルビア。

 婚約者冥利につきる。


 そう、シルビアは魔術を使えるようになったけど、二つの理由から俺との婚約はまだ続いてンのよ。


 一つは『空飛ぶバイク』が飛ぶように売れ、開発した功績で俺が昇爵した事。だから、魔術を使える王族ともギリ釣り合いが取れるようになったワケだ。


 もう一つは……





「でも、やっぱり申し訳ないです。ずっと貴方の時間を奪ってしまいますし……後悔、してませんか?」


 式典が終わり、シルビアからそう聞かれた。


「してねンだわ」


 実は魔術を使える事がわかった後、シルビアは俺に今後どうしたいかって聞いてきたことがあったのヨ。俺が望まぬ婚約なら破棄してくれても構わないってナ。

 でも、俺が俺自身の意思で婚約継続を強く希望した事が婚約継続の決め手になった。


 え?

 夢のハーレムや女の好みはどうしたんだって?


 それよりももっと大切なもン見つけたンだわ


 金?名声?権力?

 そんなんモンじゃねンだわ。


「ひゃ!あ、あの……どうして」


 今だにそれをよくわかっていないらしいシルビアを抱きしめる。伝われ、俺の気持ち。


「なあ、シルビア」




 愛してンだわ

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― 新着の感想 ―
俺、バカだからよー。硬派なマンガ作品とか分かんねぇんだよー。 でもよー、女でもモノ作りでも、信念を真っ直ぐ貫く奴がカッケーんじゃねぇの? バカが、苦境にめげずに、ブチ貫く栄光。 B・K・B!! ヒ…
「シルビアの女を上げるも下げるも お前次第なんやで次〇郎」 ヤンキー漫画の独特なワードセンスって素敵だと思います。
最高なンだわ。 特に最後のセリフが。
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