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星は瞬き世界は巡る




「し、死ぬかと思った…!」


 街道の真ん中で肩で息をする。


「流石に山に入ってすぐサル型のモンスターに襲われて食糧が入った荷物を盗まれ、道に迷って遭難して三日

 道に出れたと思ったらウルフの大群に追いかけ回され木の上で二日過ごして

 やっとウルフたちが去って降りたところで背後から突進してきたベアと戦闘するとは思わなかったね」

「普通、初手で死ぬから!」


 現代人の儚さ舐めんなよ!


「でもシンがいてよかったよ

 私だけだったら山に入った瞬間死んでたし、まさかコーディングリングが効かなくて怒らせたまま死ぬところだったよ…」

「ベアにモンキーたちが殺されてたせいか荷物は食糧以外無事だったのはよかった、けど予定よりだいぶ日が掛かっちゃったね」

「うう、こんなはずではぁ…」

「スウに大きな怪我がなくてよかった」

「ええん、でもベアの血でぐちゃぐちゃだよぅ…」


 どういうわけか同じサバイバル生活をしたというのに汚れていないシンに僻みを込めて防具の少ない胴体のところをがすがすと殴る。


「はは、いたいいたい」

「くそ〜私もシンみたいに強くなってやるぅ」

「うん、楽しみにしているよ」


 殴っていた手を受け止め、手を繋ぐ。

 迷子にならないよう滑落しないようにと山でシンが提案して私が受け入れた安全策だ。


 平地でもするのか…

 繋がれた手を見てから先を歩くシンの顔を見るもこちらからはその表情は見えない。


「うう、お風呂入りたい水浴びでもいい…血の匂いを落としたい…」

「だったら途中に井戸があったはず、そこで休憩していこうか」

「助かるぅ…」


 山の中は湿気と朝露があったおかげであまり喉が渇かなかった。

 しかしそれでも体を拭いたり身なりを綺麗にするだけの水はなかった!


「人類の叡智に感謝」


 この場合はゲームの開発陣にだろうか。

 どっちでもいいや。


「シンも、顔ぐらい洗いなよ」

 

 『自由にお使いください』と書かれた看板の下のタライを持ってきて汲み上げた井戸水を入れる。

 タライの水で軽く布巾を濡らし血のついた箇所を濡らす。


「ちょっと向こうで体拭いてくる」

「わかった、何度か呼びかけるけど返事がなかったら見に行くけどいいかい?」

「いいよー」


 それまでには終わるだろう。


 夏場でよかった。

 固く絞れば数時間で服は着ていても乾く。


 先にタオルで体と髪についた血を拭いふやかす。

 ふやかしている今のうちに服の血も落としてしまおう。

 ガバッと服を脱いだ。そして視界に映ったのは黒。


「大変だったね」


 太陽の逆光で顔は見えない。


「……」

「おや驚いて声も出せないのかい?」

「堂々と覗きをする人っているんだなぁ」

「サラシを巻いているんだからいいじゃないか」

「それはそれ、これはこれ」


 どうやら危害を加える気はないようだ。

 視線を合わせるためしゃがんだその男に危険はないと判断して服を洗う。


「清浄の奇蹟は貰わなかったのかい?」

「何その絶対私が今欲しい名前のアイテム」

「出立が早すぎたから渡し忘れたことにも気づいていないんだろうね」

「持ってるの?」

「持ってるよ、でもタダではあげない」

「意地悪、いいよ夏に感謝しながら洗濯するから」


「スウー?」

「大丈夫ー!」


 シンの呼び声に返事をする。

 返事をせずシンがここにきたら厄介なことになると思ったからだ。


「あの日シンを襲撃したのは貴方?」

「わざわざ死出の旅に出る者を殺す必要はないだろう」

「つまり違うってことね、それが聞けて少し気がラクになったわありがとう」

「おおかた教会か王家の差し金だろう」

「心当たりあるの?」

「君の方が詳しいだろう?こういう設定は」

「……そう」


 なぜ私のことを知っているのかは聞かない。

 このゲームは初めからどれもバッドエンドからだったが複数のルートがあった。


 それがたまたま私を含んだ私の知らないエンディングが複数存在していた。それだけの話だろう。


「これから君の運命を語ろうか?」

「いい、ストーリーは初見の感動を大切にしたい派なの」

「君が死ぬことになってもか」

「ネタバレありがとう」


 ギュッと服を絞ってシワを伸ばす。

 よし血は消えた!


「スウー?」

「今から体拭くとこー」


「……恥じらいってものはないのか?」

「じゃあ向こう向いててくれるの?」

「…… ……」

「普通こういう時ガン見を選ぶ?変態」

「異世界の者は災いを起こすからね」

「世のことわりに責任転嫁してんじゃないわよ」


 サラシは奇跡的に無事だったからその付近の肌を拭う。

 パリパリになった血は山を抜けてから剥がし落としておいたおかげかふやかしておいたおかげか、するする落ちる。


「君は、これから起きることを知っているんだろう?」

「だいたいね、でもこのルートでそれが起きるかは未確認なの」

「…どのルートでも起きたことはその物語の基盤になっているとは思わないのか?」

「守破離ってあるでしょ?

 起承転結とか序破急ってのもあるけど私はこのゲームは守破離で動いていると思うの」

「つまり?」

「プリケは死なせない」


「……どうしてその結論になったんだい?」

「今までのルートはプリケが死ぬことによってバッドエンドになっていた

 だからプリケの死というイベントを起こさなければハッピーエンドに行けると思ったの」

「ほう」

「そしてこれは個人的な願いだけど

 私もっとプリケと一緒にいたいの

 だって食べ物の趣味とかすごく合うんだもの

 そんな人、元の世界にもあまりいないんだぁ…」


「それは、メアリー・スーとして?それとも…」

「それは秘密」


 イタズラっ子っぽくはぐらかしてみる。

 顔は見えないが微かに笑った気配がした。


「じゃ街に向かわないとだからここでさよなら

 次があったらまた会いましょ、私の宿命さん」


 和やかな雰囲気にまま離れたかった。

 しかししばらく考え込んだ後、男は首を横に振った。


「今きみを連れて逃げたいって言ったら?」

「私の邪魔をするの?」

「きみのためならそれも厭わない」

「困ったな、うーん困った

 私はシンと『死なないこと』『シンからのダーニングを受けること』『誰かの身代わりにならないこと』を約束しているの」

「全部、破るつもりのくせに」

「そうだね、いつかは破る

 でも少なくとも今ではないよ」


 トリコットにもらった外装を被る。


「スウッ!」

「もう、返事はしてたでしょ」

「……誰かいた?」

「ううん、誰も

 ただこれからのことをちょっと声に出して整理してただけ」


 あたりをキョロキョロ見渡して首を捻るシンにデコピンを喰らわせる。

 こんな堂々とした覗きをする人が二人いて堪るか。


「話すか迷ってたんだけどシンにならいいかな

 これから起きる神子暗殺計画について歩きながら話すね」


 シンの表情が変わった。






「おちょいでちゅね、二人とも」


 寂しそうにベランダで風景を眺めている幼児を忌々しげに睨む。


「そんな顔ちたら普通の子どもは泣いちゃいまちゅよでんか」

「……」

「そうです、我々はグレーディングに向かう仲間です

 何があったのかは知りませんが幼子のそのような態度やめていただけますか」


「……失礼する」


 一緒の空間にいるのが苦痛だ。

 外の空気を吸うため、外に出る。


「殿下、護衛は」

「必要ない、一人にしろ」

「ですが」

「いいから、これは命令だ」


 そういうと引き下がった護衛。

 わざわざ無駄なことで煩わせないで欲しい。


「……息が詰まるな」


 勇者の適性があると言われても俺はせいぜい一ヶ月の飢えと拷問の痛みに耐えられる程度だ。


「初めましてシュス殿下、勇者候補のシンです」


 初めて会ったのは王都に呼び戻された当日。

 俺の護衛だと連れてこられた時が最初だ。


 虚な絶望し切った目を今でも覚えている。

 体はパタンナーの加護で健全に育っているがそれでも心がダメになってしまっている。


「これは吾輩の最高傑作でございます殿下

 肉壁にでもあちらの世話でもできるよう躾けております」


 下郎が


「おい、勇者候補

 お前の望みはなんだ」


 庭園でぼんやりと蝶を見ていたシンに話しかける。

 三度の襲撃を身を挺して守ったこいつに褒美を取らせようと思ったからだ。


 年も自分とさほど変わらないというのに話しかけるまで一切口を開かないからこういう機会でもなければ話しかけなかっただろう。


「望み…?」

「美味い飯が食いたいとか娯楽が欲しいだとかそうお前や俺の年頃が欲しがるものとかなんかないのか」

「望み……」


 しばしの静寂

 そんなに考えこむようなことでもないだろうに


「なにもありません」

「何もない?そんなわけないだろう」

「本当に、何もないんです

 欲しかったものもなりたかったものも、叶えたかった夢も全て村が燃えた時に消えましたから」

「……っは」

「質問を返すようで申し訳ありませんが

 皇子は何が欲しいのでしょうか?」

「……」


 王の首が欲しい


 そんなこと口に出せるわけがないのに言ってしまいそうになった自分を恥じた。


 そのあと俺は勇者候補── シンの経歴について調べた。

 そこには本人ですら知らないような襲われた理由が書かれていて急に全てが悍ましくなった。


 こんなところにシンを置いておけない。


 生前、母の友人だったという紡ぎの聖女だった司祭に連絡をとりシンの保護を依頼した。

 シンの後見人にも連絡を取ったが「ご自由になさってください」という返事だった。


「どいつもこいつも、どいつも!こいつも!!」


 教会にやって数年、とある筋からシンの状況を聞いた。


「あいつを種馬にするためにやったんじゃないぞ!!」


 すぐさま呼び戻し私兵に加えようとした。


「でもいいんですか王子

 この勇者、こっちに来ても殺人カラクリになるだけっすよ」

「教会も王室も信用できん

 それなら俺の私兵にして人間とは何かを学ばせたほうがいい」

「…へーい、分かりましたよっと

 じゃその手筈で、引き渡しには教会の弱みをちらつかせて三日でこっちに来るようにしまっす」

「遅い、明日連れてこい」

「無理難題っすよ!?」

「うるさいさっさと行け」


 ちぇーと不満たらたらに出ていったシノビという元暗殺者を見送り窓枠に体を預ける。


「これでもし、何をしても地獄ならこんな世界無くなってしまったほうがいい」


 もはやシン一人を苦しませるために編まれた運命だ。

 そのために集約された糸を紡いでいるのは誰だろう。


 星に問いかけてみる



 ……星は何も答えなかった。


シュス・サテン

 ・王族で第二皇子

 ・王族嫌い父親嫌い世界が嫌いな思春期ボーイ

 ・お前ならわかってくれるだろ…?ってグルグル目で病むタイプの男

 ・巷ではシン×シュリ派とシュリ×シン派というどこにいても何をしても争いの渦中になる人

 ・魔術も戦闘もできるオールラウンダーな人

 ・大事なものは見せびらかせて自慢したいタイプ

 ・名前の由来はサテンの繻子(しゅす)織りから。

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